暁 〜小説投稿サイト〜
だいたいチーバくんのおかげでややこしくなった話
忘却はよりよき前進を生むが、それを言ったのがニーチェなのかフルーチェなのかはわからない話
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くないとも思った。

(あいつ私服姿もよかったな。きっちりしてた。俺なんかと違って、家でもちゃんとしてるんだろうなあ)

 そうやって総一郎の姿を思い返していたら、乗り過ごすところだった。
 ギリギリでなんとか電車から降り、隼人は家へと帰った。



 一日だけではやりきれなかったため、隼人は翌日も総一郎の家に行き、勉強のやり方を教わった。
 そして、追試の追試の追試を受けた――。



「総一郎!」

 朝の電車で、乗ってきた総一郎を見るなり、隼人は立ち上がってしまった。

「どうした?」

 席の前に来た総一郎が、とりあえず座れ、と両肩を押さえてくる。
 座り直しながら、隼人は報告をした。

「やったよ!」
「ん?」
「追試、全部通った!」

 すると彼も、怜悧な顔をわずかにゆるめた。

「そうか。よかった」
「追試の問題、全部見たことがあるような問題に見えた!」
「ああ、そうなれば勝ったも同然だ。きちんと準備さえできていれば、学校のテストというものは、それまでに用意した引き出しを開けるだけだ。頭を使う問題など実はほとんどない」
「お前、すごいよ! ありがとう」
「おめでとう。君が頑張った成果だ。僕は一回で変われた君がすごいと思う」

 今度は総一郎のほうから、手を差し出してきた。
 隼人はその白い手を強めに握り返し、そのまま彼の顔を見た。
 微笑のレベルからは逸脱していない。だがなんとなく、彼も心の底から喜んでくれているような気がした。
 そして、彼が褒めてくれた。それが隼人には嬉しかった。

「先生やクラスメイトからも反響があっただろう?」
「めっちゃあった! 褒められたし、明日は大雪が降るとか言われた!」
「そうなるとやる気が出るから、次も点が取りやすくなっていく。しばらくはその好循環が続くようにしたい。期末テストも対策法を伝えたいので、今週中にまたうちに来てほしいけど、どうかな?」
「ぜひ! ぜひぜひ! ぜひ頼む!」
「じゃあ決まりだ。また先生やクラスメイトに褒められるようにがんばってくれ」
「ああ! またお前に褒めてもらえるようにがんばるよ!」

 改札を出てからも、高揚感は止まらない。

(期末もがんばろっと)

 また彼の家に行くことができる。そう思うと、自然と足取りも軽くなる。
 いつもよりも早く校門までたどり着いた。

(よーし。勉強の第一歩はイマジネーションと……あれ、なんだっけ? なんとかベーション……マスターベーションだっけ? もう忘れちまった……。明日あいつに確認しよっと)

 隼人は空を飛んでいるような感覚で、学校の敷地へと入った。





(『忘却はよりよき前進を生むが、それを言ったのがニーチェなのか
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