忘却はよりよき前進を生むが、それを言ったのがニーチェなのかフルーチェなのかはわからない話
[9/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
けようとしたが、途中で止まってしまった。
彼は伸びをしたまま仰向けになったので、シャツの裾から腹部が露出していたからである。
(なんだ、このサービスタイムは……)
もちろん彼は見せつけているわけではなく、見えてしまっているだけなのだろう。
だが、引き締まった生腹筋に、きれいな生ヘソ。学ランのズボン上からはみ出すディープブルーのパンツ――おそらくボクサーパンツ――。据え膳にも程がある。
総一郎の頬は瞬時に熱くなった。
彼は脱力した状態で目をつぶっている。
どうする?
手を伸ばすか?
それとも手を伸ばすか?
あるいは手を伸ばすか?
もしくは手を伸ばすか?
(なんてな。そんなことは論外だ)
総一郎は意識的に顔を逸らした。
彼はここに教わりに来ている。そうなれば、やはり自分は家庭教師や塾講師と同じ。役割は彼に追試で点を取らせることだ。
総一郎は、庭の門の外まで隼人を送った。
「今日はサンキューな!」
「ああ、気にする……な…………!?」
まるでヘッドロックのように、彼の腕が乱暴にギュッと首に巻き付いた。
男友達ではけっして珍しい光景というわけではない。運動部であろうが文化部であろうが、よく見られるものだろう。
なのに、首から脳天に至るまで瞬時に熱くなる。
暑い季節に、発火しそうなくらいの熱さ。
でもそれがなぜか心地よい。
距離が近いので、彼の香りを強く感じる。頭がクラっとした。
腕はすぐに離れ、彼も離れた。それがとてつもなく惜しかった。
「じゃあ、おやすみ!」
最後は、向き合った隼人のほうから手を差し出してきた。天使のような笑顔付きだった。
「ああ。おやすみ」
総一郎も手を差し出し、握り返した。そこで気づいたが、握手するのも初めてだった。
野球部の、硬い手だった。
* * *
(あれは失礼じゃなかったよな? 大丈夫だよな?)
隼人は、総一郎邸を後にして電車に乗ってからも、心臓がバクバクと鳴っていた。
腕が総一郎の首に回ったのは無意識だった。部活の仲間にはよくやるし、やられることもある。
だが、やってから気づいた。やはり彼は他の友人とは違う、と。
距離が近いので、彼の香りを強く感じる。頭がクラっとした。
腕を回しているのは自分なのに、あたかも自分の首が絞められているかのように視界が急速に白ばんでいき、ホワイトアウト状態になりかけた。
しかもそんな状態なのに、腕を外すことがもったいないと思った。
他の人にやっても、あのような感覚にはならないはずだ。
さらには、照れ隠しとカモフラを兼ねてやった握手。手を握るのは初めてだったが、その感触を忘れた
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ