忘却はよりよき前進を生むが、それを言ったのがニーチェなのかフルーチェなのかはわからない話
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く。どうやら癖なのだというのは、すでに総一郎も把握済みだ。
だが今の位置関係でそれを右手でやられると……袖の奥の脇の下が見えてしまう。
腋窩を構成しているしっかりした筋肉の壁と、薄い毛。
心の準備ができていなかった総一郎の心臓が跳ねた。軽い浮揚性めまいのような感覚に陥り、視界もホワイトアウトしかけた。
(み、見てはだめだ……。家庭教師も塾講師も、その仕事は脇チラで動揺することではない。『成績を上げること』だ。まずは結果を出さねば)
現世に踏みとどまれるよう、必死に心身に喝を入れた。
「少し考えたい。三分くれ」
三分? と首をひねる隼人をよそに、総一郎は目をつぶり、思案に入る。
彼の勉強の仕方は……たぶん悪いのだろう。普通の人であれば、彼のやり方でも悪くはないのかもしれない。だが彼はそういう次元には存在していない。
そして致命的な問題がある。「点が取れる気」がしないのにそのまま勉強していることだ。取れるイメージが湧かないからモチベーションも上がらず、勉強の質が悪くなる。勉強の質が悪くなるから点が取れず、ますます点が取れる気がしなくなる。悪循環以外の何物でもない。
これを解決するには……。
総一郎はアイディアをまとめていく。
「よし。わかったよ。君がどうすればいいのか」
「ホントか?」
「君は一度まともな点を取るといい。まともな点を取って、周りの人たちに褒めてもらうんだ。そうすれば今後も点が取れそうな気がしてくるし、その状態で勉強すれば、きっと今よりも質の高い勉強ができるようになってくる」
「そうなんだ? 俺なんかでも一度まともな点取ればイケる感じ?」
「ああ。勉強の第一歩はイマジネーションとモチベーションだと思っている。いい点が取れそうだと思って勉強するのと、どうせ取れないだろうなと思って勉強するのでは、その効果が大きく異なるからね」
「おお!」
ウキウキした声を出した隼人だったが。
「……って。俺、その『まともな点を取る』ってのができないから困ってるんだけど」
ガクッと彼の肩が落ちる。
だが、この答えも総一郎はすでに用意していた。
「ならばズルすればいい」
「え、カンニングとかか? 悪いことをするのはちょっとな」
「もちろん合法的なズルだ。今回それを僕が教える」
総一郎は湯のみを口に運び、のどを潤した。
「まずは教科書とノートを用意してだな……」
「うん」
「閉じたままにしておく」
「ん? 開かないのか」
「ああ。どちらも補助的に使う。メインで使うのはこれまでに落ち続けた試験の過去問だ。持ってきているな?」
「LINEで言ってたやつか。全部持ってきてるぞ」
五分くれ――。
総一郎はそう言うと、本試一回
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