忘却はよりよき前進を生むが、それを言ったのがニーチェなのかフルーチェなのかはわからない話
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木が見えている。
(あいつ、いかにも育ちがよさそうだったもんな)
意外性はないのだが、隼人は築二十五年の普通の家に住んでいることもあり、やはり気圧される感じはあった。門柱についたインターホンの前で固まってしまう。
(き、緊張する)
前日は嬉しすぎてそこまで頭が回らなったのだが、よく考えたら総一郎の家である。緊張しないわけがないのだ。
(準備は大丈夫のはず……なんだけど、不安だな)
練習が終わった後は、水泳部に頼んでシャワーを貸してもらった。学ランの中のYシャツは汗を吸収しすぎていたので、脱いでバッグに仕舞ってある。中に着ているTシャツとボクサーパンツもシャワー後に替えているし、汚れたバッグもしっかり拭いている。用意は完璧のはずだ。
(よし、行こう)
ボタンを押す決心を固めるのに結局数十秒を要したが、無事に門を乗り越えた。
玄関へと向かう。
「やあ隼人君、待っていたよ」
「こんばんは。息子がお世話になっております」
「ゆっくりしていってくださいね」
(……!?)
事前にLINEで三人家族であるということは聞いていたが、なぜか三人揃って扉の前でお出迎え。
隼人はガチガチになってしまい、どう答えたのかは瞬時に忘れた。何かの言葉を発してアハハハと笑って、カックンカックンと何度も頭を下げた。
辛うじて、父親は長身で眼鏡をかけていて、髪を決めている「できる風サラリーマン」のような容姿であり、どこかで見た顔のような気がしたこと。母親は髪が長く、おしとやかな雰囲気の女性であったこと。そして総一郎はどちらかというと父親似だということはわかった。
玄関から中へとあがっても、心臓のバクバクは止まらない。
(晩メシの誘い、遠慮しといてよかった……)
LINEのメッセージでは「よければ夕食も」という話もあった。さすがにそういうのは早すぎるだろうということで全力で辞退していたが、どうやらそれは正解だったようだ。
もしその話に乗っていたら、心臓破裂で生きて帰れなかっただろう。
* * *
総一郎は、自分の部屋に隼人を案内し、部屋の中央にある円卓のところに座るよう促した。
八畳の部屋は普段からきれいにしている。しかし念のため、彼を迎え入れるにあたり失礼がないよう、昨日学校から帰ってから大掃除を敢行していた。
壁際に置かれたベッドも、機能的なデスクも、報道番組しか見ないテレビも、舐められるくらいピカピカにしてある。棚の上に置かれたネオンテトラの水槽も水を替え、フィルタも掃除済。エアコンのフィルタも掃除し、蛍光灯もすべて新しいものに交換している。
部屋着も普段はチーバくんのロングTシャツを愛用しているが、彼に見られたらドン
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