忘却はよりよき前進を生むが、それを言ったのがニーチェなのかフルーチェなのかはわからない話
[4/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
し、むしろやらせてほしいと思っているから、この話は決まりだ。今日はこちらの準備を整えるので、明日部活帰りにうちに寄ってもらおう。特に用事はないな?」
「え? あ、うん。用事はないけど」
「ではそれも決定だ。契約書はないが、口頭での約束でも法的には契約として有効だ。一般的には口頭での契約は立証が難しいとされるが、今回はこの車両に乗っている人間全員が証人となる」
「よ、よくわからないけどわかった……」
声が届いてしまった左右のサラリーマンが「はぁ?」という顔で総一郎を見ている。無論、集中している総一郎本人にはなんの障壁にもならない。
「よし。では後で家の場所を送ろう。LINEのIDか電話番号がほしい」
「じゃあどっちも教えるよ」
「ありがとう」
「こ、こっちこそ。なんか悪いな」
無事に彼に勉強を教えられる流れになった。しかも彼のLINEと携帯番号まで入手。
うまく行きすぎて怖い。
(ダメだ。まだ笑うな)
以前、父親との何気ない会話で、「塾講師や家庭教師は生徒と仲良くなることや信頼関係を築くことも大事だが、一番大事なのは『成績を上げること』である」と聞いていた。
総一郎は学生であり塾講師や家庭教師ではないが、今回役割としてはほぼ同義だろう。
笑ってよいのは結果が出てからだ。
* * *
電車からホームに降りた隼人は、まだ信じられない思いでいた。
(なんか凄いことになったぞ……)
全教科赤点を取ったこと。追試でも全滅し続け、期末テストが近づいている今でもまだ引っ張られ続けていること。これらは特に深い考えもなく、聞かれたから正直に答えただけだ。嘘をついてごまかすことでもないし、せっかく毎日会話をする関係になった彼に嘘をつきたくもなかったからだ。
だがそうしたら、まさかの展開となった。
(でも、嬉しいな)
LINEと携帯番号を交換できたのがうれしい。彼が自分を助けてくれようとしているのが嬉しい。彼の家に行けるというのが嬉しい。
最高すぎる。こんなコンボが来ようとは思っていなかった。
(うわー今なら空飛べそう)
隼人は両手を広げ、自動改札機に進んだ。
「ぐふっ」
閉まったフラップドアに腹部を強打した。
翌日――。
野球部の練習を終えた隼人は、約束どおりに総一郎の家に到着した。
(ず、ずいぶんと立派な家だな)
今は日が長い時期なので、ギリギリではあるだろうが、まだ明るい。家と庭がよく見えてしまう。
大きな門の向こうには、きれいに刈られた高麗芝が特徴的な、広い庭が広がっていた。そしてスタイリッシュなフラット屋根を持つ、二階建ての建物。屋上ではガーデニングをやっているのか、植
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ