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ある晴れた日に
639部分:桜の枝を揺さぶってその十七

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桜の枝を揺さぶってその十七

「だから待ってなさい。七時からはクイズよ」
「クイズかそれか」
「バラエティね。あんたどっちが好きだったかしら」
「どちらも見ないわけじゃないが」
 正道はこう静かに述べた。
「しかし取り立てては」
「好きじゃないのね」
「特に」
 そうだというのである。彼はそうなのだ。
「まあ今は我慢してね」
「わかった。じゃあ付けるか」
 こうしたやり取りの後でテレビをつける。そうして出て来たものは。
 ニュースであった。流れているのはいいニュースではなかった。ある学校で花壇が荒らされ飼育されていた動物達が殺されてていたというのだ。しかもその場所は」
「いやね、近所じゃない」
「そうだな」
 母の顰めさせた言葉に応える正道だった。
「これもやっぱり」
「やっぱり?」
「いや、何でもない」
 ここから先は母には言わなかった。言えなかった。あの男のことはだ。
「ただ。嫌な事件だな」
「そうよね。こんなことする人間って何処にもいるのね」
 彼女は言うのだった。忌々しげな声で。
「本当に」
「こんなことをする奴は人間じゃない」
 正道は言った。
「あいつは。人間じゃ」
「あいつは?」
「あっ、いや」
 ここから先もまた言葉を止めるのだった。
「それは」
「まあ人間じゃないのは確かね」
 母は彼の言葉のその部分に応えたのだった。
「こんなことする人間はね」
「そうだ。本当に」
「最近近くでこんな事件ばかり起こるから」
 母の言葉は嫌気がさしたものになっていた。
「物騒になって嫌だな」
「何とかしないとな」
「そうよね、警察は何をしているのかしら」
「警察が何もできなければ」
「その時はあれよ」 
 彼女は未晴のことは知らない。それで言うのであった。
「自分達で何とかしないとね」
「自分達でか」
「そうよ、警察とかが頼りにならないとするしかないじゃない」
 こう言う。真剣だったが真実を知らない言葉である。
「そうでしょ?そうした時はね」
「そうだな。だから俺は」
「さて、それじゃあね」
 また言う母だった。
「もう全部やってくれたわね」
「ああ、今な」
「よし、それじゃあ」
 言ったところであった。風呂場の方から扉が開く音がした。母はその音を聞いて正道に対してあらためて言ってきた。その言葉は。
「いいわね。それじゃあ」
「御飯だな」
「そうよ、御飯よ」
 息子に穏やかに笑って告げる。家族の憩いの中にも影を感じずにはいられない今の正道だった。その陰惨な影をである。


桜の枝を揺さぶって   完


                2009・12・23

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