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ある晴れた日に
635部分:桜の枝を揺さぶってその十三

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桜の枝を揺さぶってその十三

「見えるな、コスモス」
 彼もまた言うのであった。
「その目に」
「・・・・・・・・・」
 やはり返答はない。しかしであった。
 また左眉が動いた。皆はそれを見た。
「またよ」
「動いたわよ」
「そうか」
 それを聞いて満足そうに頷く彼だった。
「それは何とか」
「できてるわよ」
「安心して」
「動いたんだな」
 正道はその事実を噛み締めていた。己の中で。
「全く動かなかったのに。今まで」
「もう少しよ」
 恵美が微笑んで彼に言ってきた。
「もう少しだから。このままやって行きましょう」
「ああ、そうだな」
 言いながらであった。未晴のその左肩に手を添えた。すると今度は。
 その左腕が震えたのだ。微かではあるが。
「肩も」
「はっきり感じたのね」
「ああ、感じた」
 こう奈々瀬の言葉に答えた。
「間違いない、これはな」
「そう、よかった」
 それを聞いて頷く奈々瀬だった。
「未晴、喜んでるんだよ」
「喜んでくれてるのか」
「音橋が自分の為にここまで色々してくれて」
 だからだというのである。
「だから。頑張ろうね」
「ああ、最後の最後までやっていく」
 彼は言った。
「何があってもな」
「それじゃあ今日は」
「どうするの?これから」
「まだ花を見回ろう」
 彼は言った。
「まだな」
「そう、わかったよ」
 桐生がその言葉を受けて頷いた。
「じゃあ今度は何処に行くんだい?」
「春のところに行こう」
 そこだというのである。
「春にな」
「そう。それじゃあね」
「行くか、春にな」
「そうね」
 そのことを皆で言い合う。
「冬があれば春がある」
「ええ、絶対春が来るから」
「今は冬でも」
 秋である。しかし彼等の心は今は冬だった。その冬が終わろうとしているのを感じ取れたからだ。だから今ここでこう言えたのである。
「春に向かって」
「それじゃあ」
「行こうか」
 正道は未晴と皆に告げた。
「春にな」
「ああ、じゃあな」
「行くか」
 皆未晴の周りに戻った。そうして少しずつ春に向かって進む。そしてその姿を晴海は後ろから見ているのだった。先生達と一緒に。
「未晴がやっと」
「はい、竹林さんもやっと」
「応えられるようになりました」
 そのことを話すのだった。
「やっと。ですね」
「心が動きだしました」
「もう無理だと思ってました」
 晴海は常に心に抱いていた絶望の未来を述べた。

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