第1部
ロマリア〜シャンパーニの塔
カンダタとの戦い
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ユウリは答えず、何を思ったか、私たちが入ってきた扉から部屋を出て行ってしまった。
上の階に逃げたって自分で言ってたのに、なんで階段のない扉の向こうに行っちゃったんだろう?
私はどちらに行けばいいのかわからず、ただそこでじっと立ち往生するしかなかった。
やがて、上の階でなにやらドタバタと物音が聞こえてきた。
「……おい、待て!!」
ナギがカンダタを呼び止める声が聞こえる。そして沈黙。捕まえたのかな、と思ったが、焦った様子でナギが降りてきた。
「駄目だ!! あいつ、塔の上から飛び降りやがった!!」
「えぇ!?」
飛び降りたって、この部屋自体かなり高いところにあったはず。 さらにその上の階から飛び降りたなんて、想像もつかない。
「ま、まさか飛び降り自殺とか!?」
すると、私の言葉に答えるように、部屋の外から小さな爆発音が聞こえてきた。
みんな急いで部屋の外に出ると、そこにはユウリの後姿と、黒焦げになっている覆面男、カンダタの哀れな姿があった。
「なんだ、ここに落ちてきたんだ」
私は自殺したんじゃないことがわかって、安心した。いや、敵の心配してる場合じゃないんだけども。
「おい変態。王冠を持ってるだろう。さっさと渡せ」
「ち……ちくしょう……」
声も絶え絶えな様子で、カンダタは観念したとばかりにズボンのポケットから光り輝く王冠を取り出した。そしてそれを無造作にユウリに放り投げる。光る弧を描きながら、それはユウリの手にしっかりと握られた。
「頼む!! それは返す!! 返すから、どうかおれを見逃してくれ!! もう二度としないから、お願いだ!!」
さっき私たちが対峙した時とは全く違う態度で勇者に懇願するカンダタ。さっきまでの威圧感は微塵も残っていない。
だが、そんな言葉を鵜呑みにする勇者ではなかった。ユウリはカンダタを薄目で見下ろすと、呪文を放つ態勢に入った。
「誰がそんなたわごとを信じろと? どうせ盗みをやめたとしても、人身売買はやめないんだろ? だったら今ここで人生を終わらせてやる」
どす黒いオーラを放ちながら、全然勇者らしくない台詞を吐くユウリ。カンダタの体が激しく震えている。
「な、なんでそんなこと……い、いやそれは出まかせだ!! おれはそんなことやってねえぜ!!」
言葉が言い終わらないうちに、 カンダタはユウリに向かって何かを投げた。それをユウリは眉一つ動かさず剣の柄で打ち払うが、その衝撃で煙だか灰だかよくわからないものが撒き散らされた。それは煙幕だった。
それは当然私たちの視界も遮り、塔内部はたちまち真っ白な空気に包まれる。
「くそ、油断した……ゲホゲホッ!!」
皆して、咳き込んだりむせたりした。いったいどんな成分なのかわからなかったが、幸い目とのどを痛めただけで、煙が薄らいだ
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