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戦国異伝供書
第五十一話 関東管領就任その七

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「それだけのこと、しかし」
「しかしですか」
「それでもですか」
「わたくしには毘沙門天の加護があります」
 だからだというのだ。
「そのわたくしに刀も槍も矢も意味なきこと」
「傷を受けられることはない」
「そうだというのですか」
「今のことも」
「そうです、では進みます」
 このままと言ってだ、そしてだった。
 政虎は豪傑達を率い一直線に馬足を緩めず城に向かった。彼は城の正門に堂々と入ったがその間北条の者達は誰もだった。
 動けなかった、それで政虎が城に入ってから言うのだった。92
「何という御仁だ」
「一万以上の大軍に三十騎足らずで来るか」
「しかも具足も着けず」
「何という勇気」
「何という豪胆か」
「まさに毘沙門天の化身だ」
「あの御仁は違う」
 並の者とはというのだ。
「鬼神、いやまさに毘沙門天よ」
「そうとしか思えぬ」
「まことに毘沙門天の化身であられるか」
「恐ろしい御仁だ」 
 こう言うしかなかった、それでだった。
 その政虎と戦っても勝てない、氏康も報を受け取ってすぐに言った。
「退かせよ」
「あの城からですか」
「そうじゃ、そしてじゃ」
 さらに言うのだった。
「城は守る、しかしじゃ」
「戦はですか」
「どの城もうって出てはならぬ」
 決してというのだった。
「よいな、ただな」
「ただ?」
「ただといいますと」
「上杉家は必ずこの城に来る」
 小田原城にというのだ。
「そこを踏まえてな」
「そうしてですか」
「守るのじゃ、如何に関東中の軍勢が来ようとも」
「この小田原城は」
「攻め落とせるものではない」
「だから籠城されますか」
「そして今川殿、武田殿にな」
 義元と晴信にとだ、氏康はさらに言った。
「援軍をお願いする」
「そうされますか」
「ただな、実際にはな」
「両家の軍勢が来ずとも」 
 ここで北条綱成が言ってきた。
「よいですか」
「構わず、来ると聞けばな」
「それで、ですな」
「虎千代殿が来ないとわかっていてもな」
「他の将帥達はどうか」
「兵達もな、さすればな」
 そうなればというのだ。
「如何に上杉殿もじゃ」
「退かざるを得ない」
「だからじゃ」
「ここは、ですな」
「守っておればよい、上杉家が狙うのは小田原」
「他の場所ではない」
「だから無理に戦わず」
 それぞれの城に籠ってそうしてというのだ。
「やり過ごすのじゃ」
「それでは」
「そもそもまともに戦って勝てる相手ではない」
「我等でもですな」
「わし自ら出てお主がおってもな」
 氏康にしても歴戦の者だ、政で有名であるが戦となれば果敢に戦い実は身体の傷は全て向こう傷であるのだ。
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