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戦国異伝供書
第五十一話 関東管領就任その六

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「よいですね」
「ですが殿、駆け付けるとは」
「それはです」
「城に駆け付けるとのことですが」
「城はその一万以上の兵が囲んでいます」
「そこに駆け付けることは」
「無理では」
「敵を突破します」 
 城を囲んでいるその彼等をというのだ。
「そうします」
「これよりですか」
「そうされるのですか」
「まさかと思いますが」
「ここで」
「二言はありません」
 これが政虎の返事だった。
「これより進みます」
「敵の真っ只中をですか」
「殿だけでもですか」
「進まれるのですか」
「そうします、では」
 政虎は刀を抜いた、そうして一騎でだった。
 疾風の様に駆けだした、政虎のその無謀ともいえる行為に豪傑達も言を決した、そうしてだった。 
 政虎を先頭とした二十数騎の者達は城に向けて一直線に突っ込んだ、それを見た北条の者達は仰天した。
「上杉の軍勢か!?」
「まさか、あの数か」
「三十騎もいないぞ」
「しかも先頭に立っているのは」 
 政虎も見て言った。
「長尾殿か!?」
「長尾虎千代殿か!?」
「間違いない、あの黒い鞍に衣」
「それにあの女の様に整った顔」
「長尾殿だぞ!」
「具足も兜も着けていないぞ!」
「そのうえで我等に来るか!」
 皆仰天するばかりだった。
「我等は一万を優に超えているぞ」
「その大軍にあれだけの数で来るか!」
「しかも具足も着けずにか!」
「恐ろしくないのか!」
「しかも何という速さだ!」
「馬足を緩めずこちらに来るぞ!」
「攻めて来るというのか!」
「我等に!」
 皆仰天するばかりだった、それでだった。
 政虎と豪傑達が迫るとだった、誰も言わぬうちに。
 彼等は左右に動きそうして道を開けた、政虎はその大地が割れたかの様な道に入った、だがその馬は止まらず。
 後ろに続く豪傑達がだ、こう言った。
「ではこのままです」
「城に入る」
「そうされますか」
「ここは」
「はい、馬足を止めず」
 そうしてというのだ。
「このまま進みます」
「そうされますか」
「このまま」
「突き進まれますか」
「敵の中を」
「敵が来ようとも」
 政虎の目には当然敵である北条の軍勢の姿が入っている、彼等は今も政虎達の左右がいる。矢でも放てば届く距離だ。
 だがそれでもだ、政虎は言うのだった。
「退けるのみ」
「それだけですか」
「敵が来ようとも」
「それだけですか」
「そうです、若しここでわたくしが死ぬのなら」
 敵の手によってというのだ。
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