第一章
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狂女
スペイン王国ではある噂が存在していた。
「王宮に魔物がいるらしい」
「人ならぬ化け物が徘徊しているというな」
「何でも国中を彷徨った魔物を封じているらしい」
「人の姿をした魔物だという」
「何を言っているかわからずだ」
「そしていつも不気味に笑っているらしい」
「おじましい化けものらしいぞ」
こうした話が出ていた、しかし。
その王宮の中では王室に仕える者達がある部屋を観つつ話していた。
「今日はどうだろうか」
「女王はお元気であろうか」
「調子がよければいいが」
「どうなのだろうか」
「今日はだ」
侍従の中で年老いている者が言ってきた。
「お風呂に入って頂きたいが」
「はい、前に入浴して頂いたのは何時か」
「何時だったでしょうか」
「もうかなり前ですね」
「何年も前でしょうか」
「だからだ」
老侍従は他の者達に言うのだった。
「今日はだ、入浴して頂いてだ」
「服も換えて頂きますね」
「そうして頂きますね」
「そしてお気を変えて頂きますね」
「そうして頂きますね」
「是非な」
こう言って王宮の中にある一室に入った、そこは王宮の中では狭い部屋であり見れば中はまるで獣の棲み処の様に汚れそして乱れていた。
その片隅にぼろぼろの黒い服を着た長い髪の毛の女が蹲っていた、老侍従はその女に恭しく一礼してから声をかけた。
「女王、お気持ちは如何でしょうか」
「・・・・・・・・・」
返事はなかった、そこにいるだけだった。だが老侍従はその女に対してさらに声をかけた。
「今日はご記入欲をして頂けるでしょうか」
「・・・・・・・・・」
やはり返事はない、蹲って動かない。そいかし老侍従は声をかけ続けた。
「服はどうされますか」
「・・・・・・・・・」
「お食事はどうされますか」
「・・・・・・・・・」
どう言っても返事はない、だが。
老侍従は席に豪勢な食事を酒を置いてから恭しく一礼してそのうえで共にいる者達を連れて部屋を後にした。
そうしてだ、若い者達に話した。
「残念だが今日もな」
「ご入浴は適いませんでしたね」
「そうして頂けませんでしたね」
「残念です」
「服も用意していましたが」
「また明日だ」
入浴や着替えをしてもらうというのだ。
「いいな」
「あの」
若い侍女が老侍従に尋ねた。
「女王ですが」
「何時からだな」
「あの様になられたのでしょうか」
「私が若い頃からだ」
老侍従は侍女に沈痛な顔になって答えた。
「あの時はまだ王は前の方であられた」
「フェルナンド様ですか」
「そうだった、その頃の女王はもの静かで繊細な方でな」
「大層お美しかったと聞いていますが」
「うむ、花の様だっ
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