第二章
[8]前話 [2]次話
「ここは変わらないわね」
「ここは変わらないよ」
祖母は沙雪に笑って言った、もう八十近い筈だが年齢より若く見える。
「ずっとね、のどかだよ」
「そうよね」
「だからね」
「赤ちゃんが生まれるまで」
「ずっとここにいればいいよ、そうしてね」
「身体をっていうのね」
「ゆっくりとね」
そこはというのだ。
「休むんだよ」
「そうさせてもらうわね」
「そしてね」
祖母は沙雪にさらに言った。
「美味しいものも食べて」
「そうしてよね」
「休むんだよ、ここはお野菜も果物もいいし」
祖母はもんぺと割烹着のその姿で話した。
「近くに牧場もあるし海もね」
「そうよね、近くにあるから」
「田舎だけれどね」
昔ながらのそうした場所だがというのだ。
「食べものはいいから」
「美味しくて栄養のあるものを沢山食べて」
「そのうえでね」
「身体もよくしてっていうのね」
「いい子供を生むんだよ」
「そうさせてもらうわね」
「あんなに小さかった子がね」
祖母は目を細めさせた、そうしてこうも言うのだった。
「何時の間にかね」
「大きくなって」
「結婚して子供もなんてね」
歳月、それを感じつつ言うのだった。
「思いもしなかったよ」
「そうね、私もね」
「子供の時はだね」
「結婚して子供が出来るなんて」
それはと言うのだった、沙雪も。
「遠い未来だって思っていたから」
「それがだね」
「今はね」
こう祖母に言うのだった。
「そうなったから」
「それは誰でもだよ」
「お母さんになることは」
「最初は誰も思いもしないよ」
「子供の頃は」
「そう思うけれど」
それがというのだ。
「今のあんたみたいにね」
「お母さんになるのね」
「そうなれるとは限らないけれど」
それでもというのだ。
「お母さんになれるのよ」
「そうなのね」
「お母さんになれることはそれだけで幸せよ」
「じゃあ私は幸せなのかしら」
「そうよ、幸せになる為に」
「今はっていうのね」
「ゆっくり休むんだよ」
「それじゃあ」
沙雪は祖母の言葉に頷いた、そうしてよく寝てよく食べて養生に務めた。すると健康状態は徐々にだがよくなり。
ある夏の晴れた日に祖母に笑顔で言った。
「最近前よりもずっとね」
「よくなったのね」
「ええ、身体の調子が」
穏やかな笑顔で言った。
「いいわ」
「それはいいことだよ、やっぱりね」
「ゆっくり休むとなのね」
「お腹の中に赤ちゃんがいたら」
その時はというのだ。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ