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ユア・ブラッド・マイン─焔の騎士は焦土に佇む─
第四話 夢と日常の狭間
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こからは、ただの制圧劇だった。攻撃を受けても『俺』は止まらない。仰け反りもしない。的確に一撃をかまして戦闘不能にする。
 残るは冴空を抱えている一人。ソイツは冴空にナイフを突きつけようとするが、それよりも早く、速く、『俺』は跳躍して男の顔を思い切り殴った。

 たった一撃、それだけで男は倒れて気絶する。なんて御都合展開、理想通りの、終わりだ。

 ノイズが走る。ジジ、ジジッ、と。
 視界がブレる。場面はそのままだ。
 だが、分かる。『戻った』のだと。

 冴空が泣いている。元の姿に戻った『俺』は冴空の頭を撫でながら口を開く。冴空に笑ってほしくて、冴空の笑顔が見たくて────一言、冴空に向けて呟いた。

 この時、俺は────冴空にどんな言葉をかけた?


      おも、い、だせ、な、い。


      わ、から、な、い。


     俺は、なんて、言ったんだっけ──?




 ────意識が覚醒する。

 氷絃は目覚め、自分の視界に映る世界を視認する。彼が観測したのはいつも通り、何て事ない『歪む世界』(日常)だった。

「……っそが。下らない夢を見せやがって……」

 頭を掻き、ついさっきまで見ていた、鮮明に残っている夢に悪態をつく。
 

 ──出会って随分経った頃に誘拐されたあの日。あの時、俺が強ければどれだけ冴空の苦手を作らずに済んだのだろうか。
 監禁されていた期間は数日、そのたった数日は冴空に深い傷を与え、変化した。
 灯りが不確かな暗い場所や密室では過呼吸になり、誰かが暴力を振るうところを見れば怯え、俺が傷つく事に対しても臆病になった。
 飯も取られるかもしれない、食えなくなるかもしれないという思考が植え付けられてあるだけ、それこそ普通の何倍も食べるようになり、そして吐き出すということがあった。今でこそ、その植え付けられた思考はある程度軽くなって吐くまでには至らないが、それでも大量に食べる癖は抜けていない。尤も、身体がその食事量に適応してきた辺りで治ってきたからある種の『大食い』で済んでいる。

 ──そうなってしまったのは隣にいても何も守ることができなかった俺のせいだ。

 ──後悔しても仕方がないと思った。何も悪くないと、ありがとうと冴空に礼を言われた。お前はよくやったと親に褒められ、慰められた。

 ──それでも、それでも俺は冴空の笑顔を、幸せを、日常を、心を、身体を、あの時守ることができなかった。

 ──そして俺は病院のベッドで誓いを立てた。

『冴空を守る。もう、あんな事が起きないように俺がアイツの全てを守れるようになる。傷つくのは俺だけで充分だ』

 ──もう、冴空が泣かなくていいように。
 ──もう、冴空が辛い思いをし
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