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ユア・ブラッド・マイン―鬼と煉獄のカタストロフ―
episode5『仲直り・前編』
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ったのだ。
 今や、戦争は軍隊対軍隊ではない。国と国との戦は、常に製鉄師と製鉄師による殺し合いによって決まる。

 時代は変革した。既に軍隊など、たった一組の製鉄師にも劣る代物なのだ。

「……どうしたら、いいの」

 つまりそれは。
 そんな相手が牙を剥いてきた場合、ヒナミ如きただの魔女一人には、どうあったって太刀打ち出来ないことを意味する。

 五日前、ヒナミのもとに訪れた製鉄師とその相方たる魔女は、ヒナミを守護する為に来たと言った。だが、ヒナミを狙う海外の製鉄師達は一組ではなく、確実に組織単位の人間がヒナミの身柄を狙っている。たった一組でヒナミを守り切るなど、あの二人には悪いがとても出来るとは思えなかった。

 両親は、ヒナミのこの体質についてよく理解していた。故にこそ万全をとって、ヒナミを守るために国から何組かの製鉄師を派遣して貰っていたのだ。

 だが、それでもダメだった。あの時は頼もしく思っていた熟練の製鉄師達は、一瞬のうちに消し炭になってしまった。あの悪魔のような高笑いと共に、全てが一瞬の内に灰塵と化した。熟練の製鉄師ですらも、あの炎の前には歯が立たなかったのだ。

 どうしてこんなことに、なんてことは飽きるほど神様に問いかけた。格別の魔女体質?それがなんだ、こうして災いを振り撒くしか出来ないような体の、いったい何が良いというのだ。
 こんな事になるなら、魔女体質なんていらなかった。こんな体質さえなければ、皆が死ぬこともなかったのに。こんな体質さえなければ、平和な生を送れていたかもしれないのに。

 こんな体でなければ、きっと――。



 ――コンコン、コン、と。

 みっつ、連続した独特なリズムの音が部屋の扉から鳴った。
 一瞬ピクリと身構えたが、聞きなれたリズムはいつもシスターが入ってくるときと同じものだ。知った相手であることに小さく安堵して、ほっと一つため息をつく。今や、こんなノックの音一つですらも恐ろしく感じてしまっている自分に嫌気がさす。
 背表紙から垂れる糸を頁に挟み込んで本を閉じ、「入って」と声を掛ける。するとドアノブがゆっくりと下がって、扉の向こうにいた人物が姿を現した。

 その人物は、決してシスターではなかった。

「……おはよう、ここにいたんだね」

「――――っ!」

 息を呑む。

 そこにいたのは丁度五日前、ヒナミがこの施設に入って初めて出会ったシスター以外の住人。
 そして同時に、出来るならもう会いたくないと思っていた少年だった。

 シスターが言うには、名を逢魔シンというらしい。深い焦げ茶色の髪は所々で跳ねていて、赤みがかった瞳は鋭く細い。灰色のタンクトップの上から室内だというのに真っ黒なコートを羽織って、その体の大きさはシスターが
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