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戦国異伝供書
第四十九話 小田原へその十一

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「そしてそのうえで」
「学問や修行、鍛錬にですか」
「励んでいます」
「そしてご政務にも」
「そうなのです、ただ」
 ここでだ、政虎は飲みつつ苦笑いになってこうも言った。
「どうしてもこれだけは」
「酒はですか」
「止められません、これがなくては」
「殿はですね」
「どうにもならないので」
「殿はまことに酒がお好きですな」
「誰に止められても」
 これまで実は毎日深酒が過ぎると多くの家臣達に諫言されている、だがそれでも今の様にというのだ。
「この様に」
「飲まれますね」
「こればかりは、こちらへの煩悩は」
 それはというのだ。
「止められません」
「左様ですか」
「せめて肴は」
 こちらはというのだ。
「質素にしていますが」
「殿にとっては塩もですな」
「贅沢です、そう思うとわたくしはまだまだ修行が足りず」
 仏門へのそれがというのだ。
「そしてです」
「煩悩もですか」
「不快です」
 自責を以て言うのだった。
「反省しております」
「そうですか、ですが今は」
「祝いの場だからですね」
「そうです」
 それ故にというのだ。
「祝うものは祝うものですね」
「それもまた道理です」
「では今は」
「昼であっても飲み」
「そのうえで楽しみましょう」
「さすれば」
 政虎は兼続の言葉に頷いた、そうしてだった。
 この日は昼に酒を楽しんだ、そして夜は飲まなかったが決して泥酔しておらず屋敷の縁側で月を見てだった。
 そのうえでだ、傍に来た直江に言った。
「これよりわたくしはです」
「はい、上杉家を継がれたので」
「東国の、そしてひいては」
「天下のですね」
「公にです」
 それにというのだ。
「この身を捧げます」
「では我等も」
 直江は兼続のその言葉を受けて頷いた、そのうえでの言葉だった。
「殿の手足となり」
「働いてくれますか」
「そうさせて頂きます、ただ」
「それでもですね」
「長尾殿ですが」
 政景のことも話すのだった。
「確かに殿に忠義を誓っておられますが」
「それでもですね」
「やはりお心の何処かで」
「越後そして家督をですね」
「見ておられるので」
 それ故にというのだ。
「ですから」
「そのことについてはですね」
「お考えを、そして」
「跡継ぎですね」
「殿は奥方を迎えられません」
 このことから言うのだった。
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