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戦国異伝供書
第四十九話 小田原へその十

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「そういえばこうした場で飲むことは」
「あまりありませんな」
「そういえば」
「殿は毎日飲まれていますが」
「それはおおむね夜ですな」
「昼に飲むことはないですな」
「こうして宴を開くことも」
 それもというのだ。
「どうにも」
「左様ですな」
「あまりないですな」
「殿は質素なので」
「それ故に」
「はい、酒は好きですが」
 それでもと言うのだった。
「しかしです」
「贅沢は好まれぬので」
「昼から飲まれる様なことはですな」
「あまりありませぬな」
「早く起きられて」
 政虎の朝は早く、日の出より前に起きてもう学問や鍛錬を行う。そうして政にも励んでいるのだ。
「夜まで何かと働かれて」
「文武にも精を出されています」
「そして夜になってです」
「飲まれるので」
「はい、酒はです」
 まさにというのだ。
「夜に飲むことがです」
「主で」
「そして、ですな」
「宴を開かれることはあまりなく」
「出陣の時は開かれますが」
「それでもこの様にですな」
「はい、少なく」
 政虎は応えつつ飲むのだった。
「こうして飲むことに違和感があります」
「左様ですな」
「しかし今は上杉家の家督を継がれたので」
「やがて関東管領になられます」
「だからです」
「この度の宴は当然のことかと」
「それ故今は飲みましょうぞ」
 家臣達は政虎に笑顔で話した。
「こうした時もあります」
「昼ですが飲み」
「そして神仏に感謝しましょう」
「この度のことを」
「そうですね、では今日は昼に飲み」
 そしてとだ、政虎も述べた。
「夜は休みますか」
「そういえば殿は夜もです」
 兼続は政虎のその刻の話をした。
「あまり眠られておられないですな」
「はい、これもまた修行です」
「僧侶の様にですか」
「あえてあまり眠らず」
 その様にしてというのだ。
「睡眠への欲を抑えています」
「そうでありますか」
「わたくしは以前より僧籍に憧れていて」
「出家もですか」
「考えていますので」
 それ故にというのだ。
「今からです」
「仏門の様に」
「贅沢はせず、です」
「そして学問もされて」
「眠ることもです」
 それもというのだ。
「あえてです」
「控えられているのですね」
「日々その様にしております」
「そうですか、その為に」
「いつもあまり眠らずです」
「朝もですね」
「日の出より前に起きています」
 さながら禅僧の様にというのだ。
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