きれいに巻いているつむじを見ると親指でグリグリやりたくなる話
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彼から飛んでくる質問には、ここ数日は大きなポカもなく対応できていた。もちろん、頭の中に叩き込んだ想定問答集のおかげである。
順調――。
話が弾むレベルにまでは至っていないものの、確実に彼との仲は前進していた。
だがしかし。一つ取りこぼしたままのものがあった。
そう。目の前の座席に座る野球少年の名前を、総一郎はいまだ知らないのである。
本当はもっと前に聞くべきだったのかもしれないが、タイミングを逃してしまって、そのままだったのだ。
「君」という代名詞で呼ぶのも嫌いではないし、それに応えて見上げてくれる彼のまぶしい顔を見るのも悪くない。だが、このあたりで名前をきちんと聞いておかなければ、後の世の災いとなるのは火を見るよりも明らか。総一郎はそう考えていた。
今日……。列車はこれまでにない混雑ぶりだった。
そのおかげで、彼との距離は非常に近い。
下を見るとそこは、きれいに巻いている彼のつむじ。そして立体感のある両肩。三角筋の後部までしっかりと鍛えられていることを想像するのは容易だ。
近すぎて、肝心の顔は彼が上を向いてくれないと見えないが、それはそれでよい。耳が近いため、あまり大きな声を出す必要がない楽な距離、という解釈もできる。
さらに。列車の窓の外。朝に降っていた雨は止み、今はちょうど雲の隙間から、梅雨としては貴重な陽の光が差し込んできていた。
同時に輝き出す、彼のサラサラな短髪。
こんなに彼の名前を知るにふさわしいタイミングはあるだろうか?
聞くのは恥ずかしいが、聞くは一時の恥。いつ聞くか? 今でしょ!
総一郎は密かに決意を固めた。
(よし)
人に名前を聞くときは、自分が先に名乗るのがマナー。まずは自身の名を伝えることにした。
総一郎は左手で吊り革をつかんだまま、少しだけ彼の左耳に顔を近づけた。
「そういえば名前をまだ言っていなかったな。僕の名は総一郎。君は?」
言えた。
総一郎は満足しながら、少し顔を離した。
これで彼の名前も教えてもらえるだろう。明日からはお互いに名前呼び。心の距離はまた一段と近づく。
期待に胸を膨らませたが――。
(……ん?)
彼が見上げてこない。
(どういうことだろう?)
しばらく待つが、やはり彼の首の角度は変わらない。
当然、彼が名乗ってくることもない。
(まさかの名乗り拒否か?)
だが、今日も朝の挨拶はお互いにしていたし、特に邪険にされたわけではない。名前を聞かれただけで機嫌を損ねるというのも考えづらい。
総一郎は混乱した……
……が、すぐに気づいた。
彼の首が、微妙に揺れていたことに。
距離が近すぎてよく見えなかった彼の顔を、頑張って覗き
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