episode4『日常の在り方』
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何で、何で、何でこんなことに。何も悪いことなんてしてこなかったのに、ずっといい子にしてきたのに。
突如として襲来した異国の集団は、ヒナミを執拗に狙っていた。魔女、魔女とそう繰り返して、ヒナミにとっての居場所の全てを燃やし尽くした。
「――ミ、......ナミ!」
その元凶たる男――炎を操る製鉄師の高笑いが、頭の中で反響する。すべてを燃やして奪い去る紅蓮の光が、ヒナミの身を焦がしていく。
「――お、ろ......!...ナ...!」
嫌だ、もう嫌だ、助けて、だれか、お願い、熱いの、苦しいの。
怖い、怖い、怖いよ。
ああぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ......!
「――――あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ヒナミっ!!」
「――――あ、ぁぁ......!は、あ......っ」
気が付くと、炎は完全に消えていた。
いいや、初めから炎などどこにも無かったのだ。先ほどまで見ていたのは全てが夢に過ぎず、そしてそれはただ過去の記憶を延々と繰り返すだけの悪夢。
柔らかな感触が身を包んでいた。ぼろぼろと頬を伝う涙が寝間着を濡らすのもまるで気にせず、智代は......この施設の皆が『シスター』と呼び慕う女性は、ヒナミを守るように抱きしめてくれていた。
部屋に置かれた時計は、真夜中の2時を指し示している。ふつうならシスターだって寝ている筈なのに、こうして目を覚ましている理由など一つしかない。
「......とも、よ」
「大丈夫、ヒナミ。気にしなくったっていい、怖い夢を見たんだな。苦しかっただろう」
そう言ってきゅっと抱きしめてくれる彼女の体温が温かくって、とくん、とくんと、鼓動の音が伝わってくる。
生きている音が、伝わってくる。
「――う、ぁ、ぁぁ......!」
「よしよし、大丈夫、私がついているさ。怖い夢なんか吹っ飛ばしてやる、怖がらなくったっていい」
智代の胸に顔を埋めて、押し殺した声で泣く。もう過去の事だと分かっていても、過去はいつまでもヒナミを離そうとはしてくれない。
刻みつけられた恐怖は、いつまでもいつまでも、心を蝕み続けてくる。
命は繋がった。ヒナミは生き永らえた。けれど、それでも、しかし、苦しみは泥沼のように、もがけばもがくほど奥底へと引きずり込まれていく。
――助けて。
だからヒナミは繰り返す。
――助けて。
だからヒナミは求め続ける。
――誰か。
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