episode4『日常の在り方』
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知らないのだ。
「ねえマナ、ここに新しい子が来なかったかい?」
「ミナちゃんのこと?うん、シン兄が倒れた日に、シスターが連れてきたの。シン兄も会ってたの?」
ミナ......という名に一瞬困惑したが、すぐに彼女がこの教会で名乗る筈だったという偽名がそんな名前だったことを思い出す。
「......そうだ。ミナちゃんにシン兄を紹介しようと思ったんだけど、すごく嫌がられちゃったの。もしかして、シン兄が何かしちゃった?」
「あー......、うん。ちょっと怖がらせちゃったみたいでね、マナにとってのシスターみたいなものさ」
「い、今は私の事はいいのっ!」
慌ててそう話を逸らすマナに苦笑しつつも頭を撫でてやれば、どこか不満げながらも心地よさそうに目を細める。しばらくそうして構ってやっていれば、扉の外から「入るぞ、シン」というシスターの声が聞こえてくる。
びくんっ!と面白いように跳ね上がったマナは慌ててシンの寝るベッドから立ち上がると、部屋に入ってくるシスターとすれ違うようにバタバタと部屋を飛び出していった。
「お、っとっと。今のはマナか......流石に好かれてるな、お前が寝ている間も、ずっと見舞いに来てくれていたんだぞ」
「うん、嬉しいよ。あとでめいっぱいお礼しなきゃね」
「ああ、それがいい――さ、少し冷ましてはきたが、まだ熱い。一人で食べられるか?」
「大丈夫だよシスター、ありがとう」
気になることはまだまだある。けれど今は、この空腹感を満たすことが何より恋しかった。
――やけどしない程度にあったかいシスターのお粥はやっぱり美味しくって、シンの大好きな味だった。
―――――――――――――――――
......熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。
紅蓮の海が世界を満たしていく。生まれ、育まれ、たった10年と少しではあるが、確かに自分にとっての揺り籠だった愛おしい世界が、紅く、紅く、染め上げられていく。
苦しい。苦しい。呼吸ができない、全身の骨が軋んで、悲鳴を上げている。嫌だ、嫌だ、痛い、痛い、痛い。
声にもならない声で助けを求めようとする。けれど音の形を成すのはかろうじて漏れる空気の音だけで、それだって燃え広がる焔の嵐によって完全にかき消された。
『逃げなさい、ヒナミ――!』
そう言って私を庇った両親は、次の瞬間に飛来した炎によって一瞬のうちに炭になった。たくさん遊んでくれたお手伝いさんたちも、私を突き飛ばした直後に焼失した
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