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戦国異伝供書
第四十七話 義に従いその四

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「兵を出しです」
「信濃をですか」
「あるべき方々の下に戻します」
「そうして下さいますか」
「これはあってはならないことです」
 武田家が信濃を奪うことはというのだ。
「ですから」
「兵を出して頂けますか」
「すぐに出陣の用意にかかります」
「もうですか」
「そうです、過ちはすぐに正さねばなりません」
 こう考えるが故にというのだ。
「ですから」
「すぐにですか」
「信濃に兵を出し」
 そしてというのだ。
「あの国を武田家から貴方達に戻します」
「有り難きお言葉、その時は」
 是非にとだ、小笠原は信濃守護として景虎に話した。
「信濃から長尾殿に」
「領地をですか」
「必ずや」
「わたくしは既に越後を守護代として預かっています」
 景虎はまたすぐに答えた。
「ですから」
「領地はですか」
「いりませぬ、あくまでです」
「大義の為にですか」
「戦います、それでどうして領地が必要か」
 こうも言うのだった。
「そう考えていますので」
「それでは」
「はい、領地は貴方達のものです」
 信濃のそれはというのだ。
「ご安心下さい」
「それでは」
「出陣の用意を」
 景虎はその場にいた主な家臣達に告げた、そしてだった。
 長尾家の軍勢はすぐに出陣の用意に入った、この時信濃を手に入れたばかりの武田家は越後との境にある海津に城を築こうとしていたが。
 その話を聞いてだった、晴信はすぐに言った。
「この度はじゃ」
「はい、信濃にですな」
「出陣じゃ」
 このことを信繁に告げた。
「二万の兵を以てな」
「そうされますか」
「うむ、しかしじゃ」
「戦はですか」
「出来る限りな」
 それはというのだ。
「せぬ」
「干戈は交えませぬか」
「長尾殿は戦に強いというな」
「これまで幾度も戦っておられますが」
 それでもとだ、信繁は晴信に答えた。
「しかし」
「必ず勝っておるな」
「しかも鮮やかに」
「恐ろしいまでの強さという」
 まさにというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「そうじゃ、迂闊に戦っては負ける」
 こう見ているからだというのだ。
「だからな」
「この度はですか」
「戦わぬ、おそらく向かい合う場はな」
 長尾家の軍勢とは、というのだ。
「川中島か」
「あの地ですな」
「信濃の北のな」
 そこになるだろうというのだ。
「そこじゃ、しかしな」
「川中島に入っても」
「戦わぬ」
 この考えは変わらなかった。
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