三章 天への挑戦 - 嵐の都ダラム -
第34話 一方、その頃
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二人が、手元のお茶を口に運ぶ。最初は老人が淹れようとしていたのだが、アランが「茶の葉を持ってきました」と言って淹れたものである。
「フムフム。これは……お前さんの修業時代にここに置いていたものと同じ葉じゃな」
「ということは、もうこの葉はお使いではないのですね」
「ちょくちょく替えておるからな。さすがは平和な世界。次々と新しいものが出てきおる」
「ではこの味は懐かしいでしょう」
「そうじゃの。だがお前さんの淹れるお茶、昔と味が少し変わった気がするが」
「そうですか?」
「うむ。気のせいかもしれんが、面白味がある。前よりも好みじゃぞ」
アランは少しだけ口をすぼめた。そしてフッと笑う。
「つい先日まで面白い男女二人組と旅をしていたから、ですかね」
「フォッフォッフォ。お前さんが誰かと一緒に旅をするとはな。年月が経てば人も変わるということか」
老人はまたお茶を口に運ぼうとした。
「私はお師匠様に教えていただいていたころから何も変わっておりませんよ。すべては、私自身の悲願成就のためです」
悲願。
その言葉で老人の手が止まったが、それも一瞬だけだった。
「そのわりには、お前さんの楽しそうな記憶が伝わってくるようだがのお」
「楽しかったですよ? 独特なモノの見方で、冒険者の枠にとらわれない、若くて未来のある、有望な二人でした」
アランはそう言って、窓の外を見た。
晴天ではない。雲の流れが速く、わずかに黒い雲も混じっている。
「お師匠様たちが取り戻してくださった平和な世界――。今、それを乱す波が密かに押し寄せてきているのかもしれません。ですが、あの二人が先頭に立って解決してくださるような、そんな予感がしています」
「ほう……。ならお前さんだってまだ若いじゃろうし、手伝ってやったらどうじゃ?」
「私が持っているのは未来ではなく過去です。残念ですが若くても有望ではありませんよ」
アランは自嘲するが、表情は変わらない。目を伏せることもない。
そんなアランを見つめ返す老人。
濃い碧色と灰色。二つの光は穏やかなれど、混ざりあわなかった。
「ありがとうございました。急にお邪魔して申し訳ありませんでした」
アランは家の入り口で、頭を下げた。
くたびれた木の扉。それを背にするかつての師は、その頭に対し、静かに声をかけた。
「アラン」
赤い頭が上がる。
「ここへ来たのはワシへの最後のあいさつのつもり、ということでいいのかの?」
アランは微笑んだ。
「そうなればよいと思っています。目的が達成できれば、お師匠様に合わせる顔などなくなりますから」
「そうか……。ワシはお前さんを力で引き留めることはできん。だが断言しよう。お前さ
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