ターン12 鉄砲水の異邦人
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「ええと、あれだ。ちょっと状況を整理させてくれ」
「はいはーい」
カードショップ七宝の店内にて。糸巻と鳥居を迎え入れた時と変わらずニコニコと人懐っこく笑う遊野清明を前に、当の2人はしかめっ面でこめかみを押さえていた。彼がこれまでに語ったあまりといえばあまりに荒唐無稽な話を前に、聞いているうちに頭が痛くなってきたのだ。
「まずアンタ、遊野っつったか?あの図書館にいるのは幽霊なんかじゃなくて、カードの精霊だと」
「うん、ありゃ間違いないね。それと清明でいいよ」
カードの精霊。無論、糸巻もいちデュエリストとしてその概念は知っている。大事にされた、あるいは特別なカードにはいつしか意思を持つ精霊が宿り、その持ち主を影ながら支えるという……要するに、根も葉もない噂話だ。糸巻自身は、そんな話を信じる気はまるでなかった。
とはいえ、それは決して彼女に夢がないだとかそういった結論に繋がるわけではない。彼女がそう感じる理由は単純明快にただひとつ、デュエリストというものを彼女が信じているからだ。デュエリストとは自分のデッキに、そしてそのカードに特別な愛着を大なり小なり抱くものであり、もし大事に使うだけでカードに精霊が宿るのならば今はともかく13年前、「BV」の手によりデュエルモンスターズを囲む世界が様変わりする前の彼女の周りは精霊にあふれていたはずだ。だが彼女は、そんなものの気配を感じたことは1度もない。
「精霊、ねえ」
信じる信じないは他人の勝手。「もしかしたらいるかもしれない」……そう感じたい、信じたいという気持ちも決してわからなくはない。それでも結局は子供に語るようなおとぎ話の世界でしかなく、どこまでいってもその空想は現実との境界を越えはしない。それが、夢のある話を信じたい元・少女の心と世間に擦れていく一方の赤髪の夜叉との間で折り合いをつけた、糸巻太夫としての結論でありスタンスだった。
一方、その隣の鳥居浄瑠は。彼の本来の姿は劇団員であり、ソリッドビジョンや小道具を駆使して観客に夢を見せることがその本業である。しかし……あるいはだからこそ、というべきか。当の彼自身は彼の普段から魅せるそれよりももう少し現実よりの冷めた目線から世界を眺めており、カードの精霊などという胡散臭い存在にはよく言っても懐疑的である。無論彼自身も自分の使う魔界劇団カードへの愛着は人一倍大きいのだが、それはあくまでお気に入りの道具、信頼できる自分の一部に対するものでしかない。自分の体が大事でない人間はいないだろう。しかし、その手や足に自分と異なる人格が宿るなんて話が果たしてどこまでありうるだろうか?
どちらの視線も、一言で表せば懐疑的。しかしその内訳には、決して無視できないほどの違いがある。
「ま、信じる信じないはどっちでもいいさ
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