暁 〜小説投稿サイト〜
緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
緋が奏でし二重奏 X
[1/6]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
幸いなことに、乗客員のなかに負傷者は存在しなかった。彼等彼女等はアリアと理子を優先的に武偵病院まで搬送することを快諾してくれたために、衷心から叩頭させられてしまうほどだった。そんなわけで少女2人──とりわけアリアに関しては、手術という運びになって胸部の処置を施している。理子も軽微な残痕を見せていて、その処置を終えてからはひとまず武偵校へ赴くように指示してある。乗客員も武偵病院で待機してもらっているために、機内には自分のみだ。

《境界》を閉じる余裕もなく、そのままコクピットへと歩を進める。武偵病院で事を済ませてからこちらに戻って体感したこと──あくまでも体感だけれど、それにしては、その機体はどうにも傾いているように思えてしまって仕様がない。試しに銃弾を床に静止させてみると、そのまま一方向に転がっていってしまった。先程のミサイル攻撃で、色々と貰ってしまったらしいね。

そんな悪態を吐いた刹那に、機体がひとたび静止した──と思いきや、途端に前のめりに傾斜する。急降下を始めたらしく、慣性力が一挙にこの身?まで押し寄せてきた。踏みとどまることも手を突くこともできずに、そのままコクピットまで転倒し続けてしまう。何とかその勢いを落とせたのは、機長席の背もたれに背部を強打した時だった。酷い眩暈に襲われていた。

手近な窓硝子から機体の様子を見ると、先のミサイル攻撃で損傷を受けたのは、どうやら内側2基のエンジンらしい──黒煙が朦々と立ち込めていた。対称に外側の2基は無事なようで、その幸いの加護もあってか、辛うじて機体は持ちこたえていた。それでも急降下を続けている。
機長・副機長席に視線を遣ると、2人の男性が昏倒していた。恐らくは理子に睡眠剤でも投与されたのだろう。脈搏はあるし呼吸もしている。命に別状は無いようでひとまずは安堵した。

その2人を座席から下ろして、機長席からも目に付くあたりの壁に寝かせてから、《境界》で手にした個室備え付けの毛布を被せておく。本当ならば2人も武偵病院に搬送すべきなのだろうが、この状況下に於いてその猶予が無いことは、明々白々だ。そう自分に言い聞かせる。
入れ替わるように自分が機長席に腰を下ろし、すぐさまBluetoothスピーカーと機長持ち合わせの衛星電話とを繋ぐ。衛生電話はその名の通り、衛生を介して通信を行う通話システムで、どんな状況下だろうと通話が可能になる。飛行機とか船舶の関係者が保有していることが多い。

そうして握ったこともない操縦桿を握り締めて、徐々に引いていった。体感的に、機体が元の水平を取り戻しているような気がする。僅かの余裕が生まれたためか、ふと見澄ましたフロントガラスの向こうが黒洞洞を極めた太平洋で、思わず戦慄してしまった。
大きく深呼吸してから、雑多な計器のなかから無線機を探し当てる。その信号
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ