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戦国異伝供書
第四十六話 砥石攻めその十二

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「まだ戦うつもりだ」
「信濃からおられなくなってもか」
「越後の長尾殿を頼ってな」
「そうするか」
「わしはそう考えておる、それでじゃ」
「わしもか」
「そうじゃ、どうする」
 小笠原の目を見て問うた。
「お主は」
「そうじゃな」
 一呼吸置いてだ、小笠原は答えた。
「わしもじゃ」
「落ちるか」
「最早勝敗は決した」
 砥石城が攻め落とされたことでというのだ。
「それは確かじゃ」
「それならじゃな」
「これ以上ここで戦ってもじゃ」
 そうしてもというのだ。
「降るか滅ぼされるか」
「どちらかじゃな」
「武田殿は毛利家とは違う」
 小笠原は遠い安芸の毛利元就の話もした。
「無駄な命は奪わぬ」
「出来るだけ人の命を奪わぬな」
「そうした御仁じゃ」
「毛利殿はわしのことも知っておる」
 村上にしてもだ。
「敵は騙して降らせてな」
「その後でな」
「一族も城の兵達もじゃ」
「皆殺しにする」
「そうすることが多い、そしてじゃ」
 村上はさらに言った。
「手を結んでもな」
「これまたすぐにな」
「隙を見せれば裏切る」
「奸悪無限の御仁じゃ」
「俗に謀神とも呼ばれておるな」
「とかくとんでもない御仁じゃが」
「武田殿は違う」 
 晴信、彼はというのだ。
「降る者は出来るだけ許してな」
「家臣とする、だから我等もな」
「助けてもらえるが」
 しかしというのだ。
「それでもな」
「うむ、敵に降ってその下で生き程な」
「我等も図太くない」
「それはどうもじゃ」
「ならな」
「ここは落ちるとしよう」
 小笠原はあらためて言った。
「長尾殿の下にな」
「そしてじゃな」
「長尾殿のお力を借りて」
「そして我等の領土を取り戻そうぞ」
「必ずな」
 二人でこう話してだった、彼等は今はだった。
 それぞれの兵を率いて越後まで落ちていった、晴信は彼等がいなくなるとすぐに信濃の北を全て掌握しその政に取り掛かった。だがこれで終わりではなく彼にとって大きな運命がはじまろうとしていた。


第四十六話   完


                  2019・4・15
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