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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
緋が奏でし二重奏 W
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狽を重ねに重ねたことは、未だかつてない。脳髄のすぐそこから天秤が伸びていて、それが二者択一を押し通す象徴だということは、分かりきっていた。どちらかを決断するだけの猶予を、いまは欲していた。乾燥しきってしまった脳髄に、栄養分としての水を与える時間が、どうしても欲しかった。

その苦慮の時間は、ほんの数秒だったろうと思う。さもあらばあれ──と覚悟を抱いた刹那に、ふと、また新しい感情が、胸臆から沸き立つのを感じていた。よくよく目を凝らすと、それらは憤懣(ふんまん)と悔恨であるように見える。そうして、自覚した。この懊悩の裡面には、あの少女が居たということ──護りたい者を護りきれなかった、自分への痛罵だということを。それらに対する鎮静剤は、自分自身が既に持っている。後はそれを投与するだけの意志が、自分にあるのか否か──たったそれだけだった。もうその針を、皮膚に突き刺していた。

そうして一刹那で、この胸臆は元の泰然を取り戻したらしい。代わりに──当然の帰結とはいえ──理子に対する瞋恚(しんい)だけが沸き起こってきて、先に決めた覚悟と意志とが撃鉄の役割をしてしまったみたいに、気が付いた時にはもう、《境界》のその先に居た。
背後からの襲撃に喫驚したらしい理子は、振り向きざまに《緋想》を横薙ぎにする。その刀身と手に握らせたナイフの刀身とを合わせながら、飛散した生温い血珠を頬に受けた。

理子の髪には《緋想》のみが握られている。両手に収めている銃はまだ再装填していない。その虚を突けば、《明鏡止水》が無くとも戦えるだろう。鍔迫り合いに膠着しているなかで、そんなことを巡らせながら、最速で事を済ませる方法をも模索していた。そうして、その一瞬間にアリアに目配せする。彼女もその意図を感受したのか、逡巡なく後方の個室に撤退していった。いくら峰理子を逮捕することが目的だといっても、アリア本人の身が保たなければどうしようもない。応急処置くらいのことはさせておかないと、こちらも悠々としてはいられないのだ。

……それにしても、理子のこの能力は──面倒極まりない。髪の一筋一筋が筋繊維に思えてしまうほどには、精神的なものとはまた別の、物理的な歪力を感じている。長引くと、負けるだろう。そう直感したために、銃を抜くと見せかけて咄嗟の足払いを繰り出す。意識は前者に向いていたのか、それがブラフだと予感して避けようとした時にはもう、彼女の脚先を捉えていた。

しかし理子も、それで(たお)れるようなら遥か前に斃れている。探偵科のAランクとはいえ、彼女の言う《イ・ウー》の存在は、やはり彼女のなかで大きいのだろう。そう感心する。
そうして理子は体勢を崩しながら、その軌道のままに宙返りをした。その隙に弾切れだったワルサーP99の再装填を済ませてしまうと、着地と同時に発砲してくる
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