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逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 23
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 「これからの時代を生きる者の一人ですもの。あれくらいの負けん気が丁度良いのです」
 「まだまだ不安は尽きなさそうですが」
 「此処には可愛らしいお目付け役も、護る意味を学ぶ存在も、切磋琢磨できる相手も居ます。ついでに、恐ろしくて頭を上げられない指導者も。孤児院での経験はあの子を逞しく育ててくれるでしょう。数年後のあの子達に期待ね」
 満足そうな顔で座席へと移動する彼女に続き、ベルヘンス卿も対面する位置に乗り込んで。
 「我が国には若い人材が豊富で、頼もしい限りです」
 「人は宝。損なわぬように愛でてこそ、ですわ」
 「ええ……本当に、その通りだと思います」
 扉を閉めてから、御者に合図を送る。
 やや間を置いてカラカラとぎこちなく滑り出した馬車の窓を覗いてみれば、施設の窓や畑の隙間から両腕を大きく振って送り出す神父達やミネット達の姿。
 イオーネらしき影は何処にも見当たらないが、大方適当な木の上で葉っぱに紛れて寛いでいるのだろう。その辺りが一番人目に付きにくいから。
 誰にも見えないと分かっていて、それでもプリシラは小さく手を振り返した。
 次に会う時も、皆が元気でいるように。
 そんな願いを込めて。

 「ところで、ベルヘンス卿に一つお尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか」
 「はい」
 姿勢を正して向き合う彼女に、ベルヘンス卿もちょっとだけ背筋を伸ばした。
 「騎士団の方々は、孤児院に居る間に一度でも痒みを感じられましたか?」
 「は……」
 予想外の角度から来た質問だったのか、一瞬、彼の肩がカクンと落ちる。
 しかし直ぐに持ち直し、真剣な表情になって「そういえば」と呟いた。
 「いいえ。そうした素振りを見せる者はおりませんでした。私も同様です」
 「そうですか」
 「……何故気付かれたのか、お尋きしても?」
 「痒み止めの薬液が減っていなかったからですわ」
 「なるほど……。孤児院行きは急遽決まった話でしたね」
 「ええ」
 「となると、事前に何者かが何かを仕掛けていた、という線ではなさそうですが……」
 ベルヘンス卿は唇に人差し指の側面を当てて、思考を巡らせ始めた。
 整備された区画ならまだしも自然界にほど近い孤児院で痒みを一切感じなかった事実に、護衛としての勘が何かを察したらしい。
 「……此方のほうで影を何名か見繕いましょうか?」
 孤児院への攻撃性から来る異変だとすれば、数日は警戒・監視しておくべきだろうとの判断だった。
 プリシラも同意見だと頷き、彼に采配を一任する。
 「お任せを」
 快く承諾してくれた彼に感謝を告げつつ……けれど、再度窓の外に目を遣ったプリシラの顔には、彼ほどの緊張感は見られない。

 「……長く留めるのは難しいかしらね……」

 「はい
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