第九章
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「けれど誰かと一緒にいてな」
「そしてか」
「幸せになっていいんだよ」
そうだというのだ。
「それこそ誰だってな」
「そういうことか」
「そう、だからな」
それでと言うのだった。
「あの娘ともな」
「一緒にいていいか」
「そうだよ、それでいいだろ」
こう言うのだった、そしてだった。
鷲塚は土方の言葉に頷いた、そしてだった。
この時は麦茶を飲んだ、その麦茶は確かに美味く。
土方が自分の家に帰ってそれからお静と二人で夕食の野菜炒めと味噌汁を食べている時に同じちゃぶ台を囲んでいる彼女に言った。
「わしは確かに老い先短いが」
「それでもですか」
「あんたさえよかったらな」
それならと言うのだった。
「ここにいてくれるか」
「そうしていいですか」
「ああ、そしてな」
「そして?」
「お茶もな」
これもというのだ。
「飲ませてくれるか」
「私はお茶の精ですから」
それでとだ、お静は鷲塚に笑顔で答えた。
「それなら」
「飲ませてくれるか」
「はい、是非」
お静は鷲塚に明るく笑って答えた。
「そうさせて頂きます」
「それじゃあな」
「はい、その様に」
「これからも二人でな」
「暮らしていきましょう」
「そうしてくれるか」
鷲塚はお静の言葉に微笑んだ、彼はここで久し振りに心から笑ったことに気付いた。そしてだった。
鷲塚は九十五を超えるまで生きた、その間お静そして毎日家に来てくれる土方と共に幸せに生きた。そしてこの世を去る時にだった。
家族に別れを言ってからお静にも礼を言った、その顔は非常に穏やかで幸せそうな顔であったという。
そしてお静は暫くしてから別の家に行った、そうしてその家の者を笑顔にさせた。ささやかだが暖かい幸せを贈って。
お茶の精 完
2019・4・16
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