第一章
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いらんハーレム
谷崎健の祖父健一郎は資産家であった。
元々地方財閥の総帥で今もその県で有数の資産家だ、その経営手腕も豪快な人格も県内では評判になっている。
その彼がだ、孫である彼が大学に入った時にこんなことを言った。
「お前はやがてわしの跡を継ぐな」
「親父の後でな」
自分の父のとだ、健はしっかりとした表情で応えた。面長でやや字黒である。明るくはっきりとした目でありきりっとした顔立ちが黒髪に似合っている。一七八の背もすらりと引き締まっている。その彼が痩せた顔で紋付羽織袴姿の祖父に話した。白髪は堅くそして口髭は左右に真一文字に顔から出てワックスで固められている。
「そうなるんだよな」
「そうだ、それでだ」
「それで?」
「お前にはわしの財産を譲ることになるが」
その父の次にというのだ。
「健太郎はある財産はいらんと言っておってな」
「いらん?」
「そうだ、それだけはと言ってな」
「何だよ、その財産って」
祖父の今の言葉にだ、健は怪訝な顔になって返した。二人は今谷崎家の屋敷の祖父の書斎で向かい合って座っている。広い畳の部屋で立派な掛け軸まである。健は子供の頃よくこの屋敷で忍者ごっこをして祖父に怒られている。
その部屋の中でだ、彼は昔のことを思い出しつつ祖父に尋ねた。
「一体」
「うむ、わしの宝の一つでな」
「宝って財宝かよ」
「いや、違う」
祖父は孫にそこはきっぱりと答えた。
「財産かというと厳密には違う」
「お金になるものじゃないんだな」
「それはまずは健太郎に渡してじゃ」
「俺にか」
「そうなるが」
しかしと言うのだった。
「その財産だけはな」
「親父はいらないって言ってか」
「お前に渡したいのじゃ」
「そうなんだな、じゃあどういった財産だよ」
健は祖父にあらためて尋ねた。
「俺に直接渡す財産って。お金にならないってなると」
「ハーレムじゃ」
祖父は孫に答えた。
「要するにな」
「ハーレム?」
「そうじゃ、わしは実は婆さん以外にもな」
「相手の人がいたのかよ」
「いや、いる」
言葉は現在進行形であった。
「二十人な」
「多いな」
「驚いたか」
「っていうか祖父ちゃん浮気していたのかよ」
「浮気と言うのか」
「そうだろ、祖母ちゃん以外に相手の人がいるなんてな」
それがとだ、健は祖父に批判する声で言った。
「浮気だろ」
「馬鹿を言え、わしは浮気なぞせん」
「けれど祖母ちゃん以外にも相手がいるんだろ」
「それは相手がおなごだったらであろう」
祖父は一点の曇りもない声で孫に返した。
「そうであろう」
「おなご?女の人かよ」
「わしを馬鹿にするな、わしはおなごは生涯祖母さんだけじゃ」
健一郎は
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