第一章
[2]次話
イブリースの姿
イブリース、イスラム教の悪魔である彼等の姿についてイスラムの学者や詩人達は常にあれこれと話して言い合っていた。
「人みたいな姿ではないのか」
「いや、ペリの様な姿だ」
イスラム教の天使達のというのだ。
「そこに少し陰があるのだ」
「違う、蛇だ」
「邪な姿をしているに決まっている」
「ジンそっくりではないのか」
色々な意見を言う者達がいた、そしてこの議論はジンが実在するのかという議論と同じく続いていた。
その中でペルシャのあるシャーはイブリースの姿について色々なな議論を聞いてそれで言うのだった。
「それでイブリースはどんな姿をしているのだ」
「人そっくりでは」
「いや、蛇では」
「狼では」
「不浄な豚ではないのか」
「不浄なら犬もだ」
「いや、豹だ」
とかく色々な意見がイスラムの学者や詩人達から出た。
「虎だ」
「一見温和そうな馬だろう」
「竜に決まっている」
「鳥に違いないですぞ」
「だからペリそっくりだと言っているだろう」
「違う違う、ジンそっくりだ」
シャーの言葉に王宮中の者達が口々に言った、それでだった。
シャーは彼等の言葉にどうかという顔になって彼等に告げた。
「少し落ち着くのだ」
「左様ですか」
「この度は」
「そうせよというのですか」
「そうだ、そしてだ」
ここでシャーはこれまで沈黙していた一人の詩人を見た、飄々としている感じの中年の男である。一見道化の様だがその目には深い叡智がある。
その詩人に対してだ、シャーはまずは名を呼んだ。
「サアディーよ」
「はい」
「そなたはイブリースの姿についてどう思うか」
「そのことですね」
「そなたなら言えると思うが」
深い叡智を持っている彼ならというのだ。
「違うか」
「一応私の考えはあります」
サアディーはシャーに礼儀正しく応えた。
「あくまで一応ですが」
「その考えを聞きたいのだ」
「そうですか、ではです」
「うむ、話してくれ」
「これより」
サアディーはシャーに一礼してからその話をした、それはある者の夢の話だった。
彼は夢の中でイブリースを見た、その姿は。
「糸杉の様にすらりとしていまして」
「ふむ、すらりとか」
「そして背も高く」
「そう言うと人に近いか」
「いえ、これがです」
サアディーはシャーにさらに話した。
「天人の様な顔があり」
「天人か」
「ペリの様な」
「ではペリに似た姿か」
「いや、その顔からは光がさしていまして」
その整った顔からというのだ。
「ペリさえもです」
「敵わぬ位のか」
「美しさだとか」
「ではペリにも似ていないか」
「その様です」
どうやらというのだ。
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