第一章
[2]次話
夜の声
その病院には近頃不気味な噂が流れていた。
「毎晩夜遅くに聞こえてくるらしいわね」
「時々でもね」
「何か変な声が聞こえてきて」
「それでよね」
「気持ち悪いわね」
「夜の二時位ね」
「大体それ位ね」
ナース達の間でそうした話が出ていた、だがその噂を聞いてだ。
そのナースの一人である壷井遥、旧名吉元遥はその話を聞いてこう言うだけだった。
「よくある話でしょ」
「よくある?」
「よくあるっていうの」
「そうよ、病院とかにはね」
それこそとだ、遥は大きな目が印象的な顔で言った。口は大きく髪の毛は縮れた感じで伸ばしているが後ろで束ねている。一六〇位の背ですらりとしたスタイルがナースの白衣にとてもよく似合っている。
「怪談話は付きものでしょ」
「だからなのね」
「遥は驚かないのね」
「このお話に」
「実際に幽霊がいたら」
それこそというのだ。
「その時に驚けばいいじゃない」
「噂だからなの」
「噂だったら気にはしない」
「そうだっていうのね」
「そう、怪談話は噂ならよくあるから」
病院では付きものだからだというのだ。
「だからね」
「気にしないのね」
「特に」
「遥はそうなのね」
「そう、それよりも私はね」
休憩時間にその休憩室でお菓子を食べながら話した。
「今旦那お仕事忙しくてね」
「家にいないの?」
「そうなの?」
「家には毎日帰ってるけれど」
それでもというのだ。
「お疲れモードだからね」
「ああ、だからどうしたものか」
「そう考えてるのね」
「そっちの方が大事なのね」
「夜はよく寝てもらってスタミナがつくもの食べてもらってるわ」
そうしているというのだ。
「最近はね」
「あれっ、じゃあ夜の方は」
「毎日帰ってきていても」
「それでもなの」
「夜遅くて運動までしたら駄目でしょ」
どういった運動かは皆わかっているし言う様なことでもないのでそれで遥もあえて言いはしなかった。
「余計に疲れるから」
「だからなのね」
「ご主人のことを気遣って」
「それでなのね」
「言わないわよ、けれど」
ここでこうも言った遥だった。
「入院している高校生の子達ね」
「あっ、笹山君と西野さんね」
「あの二人出来てるわね」
「いつも一緒にいるしね」
「間違いないわね」
「この前キスしたの見たわ」
遥は友人達に話した。
「全く、若いっていいわね」
「高校一緒みたいね」
「お互い入院してから知ったみたいだけれど」
「笹山君は足骨折してね」
それで今は車椅子で移動している、左足首をそうなったのだ。
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