第四章
[8]前話
「暴走した正義は最早正義ではない」
「そのことがおわかりになられましたか」
「はい、正義は理性と共にあるもので」
それでというのだ。
「暴走した正義はそれは邪悪です」
「暴走したその時点で、ですか」
「正義ではない」
「そう思われましたか」
「はい、それを自覚出来ない人は」
祖国そして今日本で会った連中はというのだ。
「彼等が忌み嫌う対象と同じです」
「差別主義者とですか」
「異論を認めず悪意と暴力で以て対するのですから」
そうした輩だからというのだ。
「もうそれではです」
「差別主義者と同じですか」
「はい、正義でも何でもなく」
顔を曇らせて言うのだった。
「邪悪な差別主義者です、しかも愚劣な」
「愚劣ですか」
「自分のことがわからないのですから」
「そうなりますか」
「はい、そしてそうした愚か者は何処にでもいる」
モンドルは苦い顔でこうも言った。
「そのことを痛感しました」
「日本において」
「そうなりました」
「そうですか、悪いものを観られましたか」
「いえ、いい経験でした」
確かに気分は悪くした、だがそれでもというのだ。
「世の中そうした輩もいる」
「そのことを知ることが出来て」
「いい経験でした」
「そうですか、ではこれからです」
日本人の学者は自分に答えてくれたモンドルにあらためて話した。
「楽しいいい経験をされませんか」
「といいますと」
「お蕎麦を召し上がられたことはありますか」
「日本のヌードルですね」
「はい、蕎麦粉から作る」
「それをですか」
「これから食べに行きますか、丁度夕刻ですし」
夕食にというのだ。
「如何でしょうか」
「一度食べてみたいと思っていました」
モンドルは彼に微笑んで答えた。
「それでは」
「はい、いい機会ですから」
「お蕎麦を紹介して下さい」
「美味しいお店がありますので」
「そこに入ってですね」
「食べて楽しみましょう」
こう話してだ、二人で蕎麦屋に行った。そしてそこで楽しいという意味でいい経験が出来たのだった。
暴走する正義 完
2018・10・16
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