プロローグ、或いはまだ見えぬ夜明け
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がら、男は小屋の扉を開けて部屋の中から出て行った。――そして、扉が閉まる音。
「……了様」
二人以外、誰も居なくなった部屋で、メイドが主の名前を呼ぶ。
「なぁに? チサ」
男に向けていたものとは打って変わって、甘ったるさを感じる声で、女は応える。視線を、スツールへ――男が居た場所へと向けたまま。
「……忙しく、なりますね」
「そうだね」
メイドに優しい声をかけて、紅茶を啜る女の視線の先――そこには、一切手がつけられていないブラックコーヒーが置かれていた。
この霧は、銀色だ。
霧である筈なのに、不思議と光沢のあるソレは、真っ白な普通の霧と入り混じっていて見分けが付かない。否、ついてもらっては困るのだ――前提で行っている、今のコトが無意味になってしまう。
ああ、無用心な女性が一人、目の前を歩いている。霧によって分かりづらいが、おそらく髪色は黒、或いは黒に似た茶。金髪ではないのが少し不満。
左手の袖をまくって、はめていた腕時計を見る。示されている時は、午後11時40分。本当に無用心過ぎる女性だ。それに、そろそろこちらとしてもいい時間。今からなら、夜明けまでには帰れるだろう。
「ねぇ、名無し。今日は、どんな殺し方をするの?」
脳内に響くようにして聞こえてきた言葉。脳味噌を溶かすような、女の声。
音を殺して歩くのは半ば癖だ。相当に聴覚が発達しているか、あるいは後ろ側にも目が無い限り、自分の存在には気づかれていないだろう。
「そうだねぇ」
唐突に背後から聞こえたであろう声に、驚いた女性の肩を掴む。革手袋越しに掴んだ為にはっきりとは分からないが、おそらく肩はむき出し。柔肌をとがめられずに触れるいい機会だったのに、惜しい事をした。
霧と夜闇で、顔が見えないのが残念だ。裏を返せば、それは己の顔があちらに見えないということでもある。いや、顔を見られても、見えなかったことにするのだから、あまり意味は無いか。
それはそうとして、とてもいい気分だった。その気分のまま、左手に持っていた銀色に光る刃を振りぬく。内にもぐりこませて、切り裂いた感覚。ナカに満たされていた熱い液体が、一瞬遅れて外に飛び出たことを頬で感じ取る。気持ちがいい。この幸せな気分のままなら、死んでもいい。
「いつも通り、だよ」
首を切り裂かれた女性は、霧に視界を阻まれたのも相まって、何が起きているのか理解出来ていないようだった。呆然とした表情――瞳が此方を映したかと思うと、首から大量の血を吹き出しながら、体ごと揺れて地面に一体化。微動すらしなくなる。
このまま、今は温かい血が地面を流れていくのを眺めてい
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