プロローグ、或いはまだ見えぬ夜明け
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を手招きする。
その招待に誘えば、何時の間にかメイドの両手の中に、紙束があった。あまりにも早い行動、そしてそれ故に、白銀髪の少女は苛立って小さく舌打ちをする。メイドを言いように使われたことに対しての苛立ちと、苛立ちを分かられているが故の迅速な行動に対する苛立ちだった。
いっそゆっくりと行動してもらえれば、詰ることが出来たのに。主の苛立ちに気づいていながらも、どうしようもないメイドは紙束を――資料の束を、手渡した。資料の重みが移る。
白銀髪の女は資料を読み込んでいく。女の、髪色とは全く違った質感の――さながら何も映さない鏡のような瞳が、文字を辿って滑る。
しばし、会話が途切れ、紅茶を啜る音や紙をめくる音しか聞こえなくなる。
沈黙。それを破ったのは、白銀髪の女だった。読み終わり、紙束と空になったティーカップをメイドに渡して、ほぅと一息。溜息交じりのそれは、恐らく一気に資料を読み通した精神的疲労によるもの。
「想像はしていたけど、ブラッドスミス関係か……」
だらしなく、体全体でソファーに凭れ掛かる。そんな女の様子を見ながらも、男が「ちなみにこれは、製鉄師である君たちに対する依頼だ」と追撃。更に女の姿勢がだらしないものになる。
「うぇー……何、ボク、また働かないといけないわけ?」
「君は働いていない方だろう。サボり癖がある上にマイペース、かつ依頼も積極的には受けない、というかこちら側から持ってこない限り受け付けない」
男から文句が泉のように湧き出るのを聞き流しながら、メイドは女へ新しい紅茶を手渡す。小さく礼をしてから受け取り、一口飲んだそれは、僅かに甘い。隠されたサイン――受けたいのなら受ければいい。
「だってさぁ、ボク達のってフッツーのには向いてないんじゃん」
口では言いながらも、女は懐からペンを取り出す。その動作を見て、男は鞄からまた新たな紙を。
それを女に直接手渡して、自分はメイドに紅茶をねだる。小さな舌打ちと共に手渡されたのは、アツアツのコーヒーだ。露骨な嫌がらせに苦笑。
女は紙に――契約書に目を通し、不備がないことを確認してからサイン。メイドに紙とペンを手渡せば、メイドも同じようにサインをして返す。
「依頼を引き受けてくれるんだね?」
サインがなされた紙を横目で見ながら、男は最後の確認。それに対して、女は「しつこい」と邪険に返す。遠まわしの肯定だった。
「……あ、これ最初に訊いておくべきだったな。質問はあるか?」
「ない」
切り捨てれば、「そうか」と男が一言だけ返して立ち上がる。立ち上がった男に、女が乱暴に契約書を押し付けるように手渡した。軽い音を立てて皺がつく。
「んじゃ、オレはこれで帰るぞ。何か困った事があれば、何時も通り。……ああ、期待しているよ」
皺になった契約書をひらひらと振りな
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