救いの夢から償いの未来へ
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かせてやりたいな」
この時だけは、少年は心の底から嬉しそうな声で言った。まるでずっと見つからなかった宝物を見つけたように『千屠』の文字を見る。
「よし、じゃあこれからよろしく頼むよ」
四葉は立ち上がり、独房から出ていく。少年セント改め千屠の拘束服は、外さない。
「あれ、今から出してくれるんじゃないの?」
「まさか。そんなことをすれば君は名前だけもらって僕を殺すだろう?」
「……かもね?」
「自分より強い生き物を手懐けるコツはね。最初に僕には絶対に勝てないと思わせることだよ。……じゃあ、しばらく後でまた会おう。次に会う時は、そこから出してあげるよ」
いつ出られるようにするのかは言わず、四葉は出ていく。そうして四葉と千屠の間に協力関係が生まれ、計画は動き出した。ああ、夢か。自分と千屠が出会った時の記憶を見て、四葉はぼんやりと自嘲する。結局自分には、千屠の罪を赦してあげることも、涼香の前で嘘を貫き通すことも出来なかった。チャンピオンになれるトレーナーとしての才能とこの地方を良くする頭脳は持っているつもりだったが、やはり友人の大事な人を死なせたことにすぐに言えなかった弱い自分には出来ないことの方が多いのだろう。
四葉の記憶はここで終わり、次に千屠の声を聴くのは彼を独房から出してからだった。だが、夢の中の彼は四葉を見て囁く。
「……ありがとう、ちょっと嬉しかったよ。だから俺が……お返しに、四葉姉ちゃんを赦してあげる」
それは四葉の脳が見せた泡沫の夢か。千屠が伝えたかった本心か。それを考えようとしたとき、彼女の意識は覚醒へと引きずられた。
「……ああ、この景色。久しぶりだね」
四葉は病院のベッドで目を覚ました。チャンピオンになってからは体調を崩しても病院に行くことなく、治療を受けられるようにしていたから、一年以上前のことになる。だがそれ以上に、四葉はそれがずっと前のことのように感じられた。
横たわる四葉の傍で、涼香が壁にもたれて目を閉じて自分の目覚めを待っていたからだ。
「……四葉!」
自分が目覚めて少し体を動かした衣擦れの音を感じ取ったのだろう、涼香が目を開け四葉を見る。野生の獣のような鋭い感覚に懐かしさを覚えつつ、四葉は聞く。
「……君と僕は、生きてるんだね。あの子たちは?」
「明季葉と奏海は無事よ。……巡が身を呈して守ったから」
「……知ってしまった、だろうね」
自分が人間ではなく、人間を模したメタモンでありフルートによる旋律が無ければ人間としての意志を保つことさえ怪しいという現実。それは受け止めがたい事実だろう。
「千屠は……あの子はあれから何か言っていたかい?」
千屠はどうなったか、は自分と彼女が生き
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