巡狩執行
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ぐろを巻いた態勢から、獲物に飛び掛かる獣の構えを取る。その瞳が、巡を捕らえた。
巡を見る千屠の表情は以前サンドのアイスボールを一刀で粉砕した時よりもずっと真剣で。
ポケモントレーナーとしての敵意とは根本から違う、殺意を幾重にも丸めたような……道理も倫理も刈り取って切り捨ててしまったような瞳だった。
「……明季葉ちゃん、海奏、逃げッ──!」
故に、巡は叫んだ。叫ぼうとした。だがその声よりも早く。まるで早回しのフィルムのようにオオタチが飛び掛かる。
巡のアリゲイツが必死で守ろうとするのも虚しく。オオタチは巡の前で体を縦に回転させると己の尻尾で巡の右肩から斜めに胸を切り裂いた。真っ赤な血が噴き出して体が倒れる。自分の首と肩の間がぱっくり開いていくのが感覚でわかった。
(──────)
それに対して、何か言葉を思い浮かべることすら出来なかった。理不尽という言葉ですら、今の状況は唐突過ぎる。このまま死ぬのか、二人がどうなるのか、四葉と話しに行った涼香がどうなったのか、それについて何らかの回答を得る前に……巡の意識が、途切れる。
噴出した血が、巡に突き飛ばされて尻餅をつく明季葉の頬を濃紫に染める。体に当たる液体の感触、自分を護らんとした少年の惨すぎる傷。
「うそ……。巡……返事を、して」
「……」
巡は答えない。既に苦痛の声すら漏らさず横たわる。明季葉が近寄って体を起こそうとするとぐちゃり、という生ぬるい音がした。線は細くとも、発達中の少年らしい面影はそこにはまるでない。
「さすがに真っ二つとはいかないまでも、ここまで切っちゃえば人間なら致命傷だよなあ。仮にポケモンでも、放っておけば危ない……ねえ、奏海くん?」
「あなたという人は……!!」
奏海がフルートを取り出す。一つ深呼吸をして、フルートを構える。
「お願いです……まだ、死なないでください。あなたには生きてもらわないといけないんです」
「あはっ、やる気になった?では見事彼が蘇生しましたならば、拍手御喝采のほどを……なーんてね」
顔面蒼白の海奏が、フルートに口をつけ音色を奏でる。彼が朝になると巡の目覚まし代わりに吹いていた曲。こんな状況でも、狂うことなく調律された音色は美しく響く。
「巡の体が……!?」
笛の音に呼応するように、巡の切り裂かれた部分が淡い紫色の光を放つ。演奏が進むにつれ光は少しずつ強くなり、離れた体がスライムのように粘着し切られたはずの肉が、絶たれたはずの骨が、形状記憶のプラスチックの様に元に戻っていく。
吹き終わった時、巡の身体は衣服以外切られたのが嘘のように元に戻っていた。閉じられた瞳が開く。
「……ああ、そっか。そういうこと、なん
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