開かれるパンドラの心
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。君はずっとあの生活を続けるつもりなのかい?」
「大丈夫よ、四葉」
一年間、誰も味方はおらず、全てが自分を憎んで、疎んでいるような感覚は耐え難いものだったし、いつ自分の命を絶ってもおかしくないものだった。誰も頼れる人もいなければ自分を信じてくれる人もいない。そんな生活には耐えられない。だけど。
「確かに私は全て裏切って無くしてしまったけど……四葉はチャンピオンになる夢を叶えても、私の為にこんな無茶をしてくれた。自分を悪役にしてでも、私の為に力を尽くしてくれたことって信じられる。だから私はもう……全てを受け入れるわ。この旅も続けて、引率トレーナーの役目も、ヒトモシとヘルガーの復讐も果たす。私はもう自分の罪から目をそらない」
「……」
四葉の瞳から、雫が零れた。膝をつき、ジャローダの上で親指姫のように座る彼女は、自分を這いつくばらせ嘲笑った彼女とは別人のようで。何より、涼香が本来知っている。この地方を良くしたい。自分の頭脳をみんなに役立てたいと言っていた優しい友人のそれに違いなかった。
「……僕のせいなんだ。僕が卑怯な手を使わなければ……涼香が、あんなに苦しむ必要はなかったんだ」
それは、涼香の突き付けた言葉が思い込みでなく真実であることに他ならなかった。きっと、涼香の弟の死に苦しんだのは四葉も同じだった。自分の策が、関係ない相手を死なせたばかりか想像をはるかに超えて友人を苦しめてしまった。
「怖かったんだ……涼香の不正が僕の罠だと言えば涼香は僕を許さないんじゃないかって。涼香がどれだけ弟のために頑張ってたか知ってたから、言えなくて……チャンピオンとしての責務に逃げたんだ。悪者のふりなんかじゃない。僕は……僕は、たった一人の友人を裏切ってぬけぬけと王者の椅子に座った悪人なんだよ。だから涼香は……僕を憎むべきなんだ。君に過ちを犯すように仕向けたのは僕なんだよ」
涼香が弟の死を自分のせいだと責めたのと同じように、四葉も友人の弟を死なせたのは自分だと、その友人を塞ぎこませてしまったのは自分だと悔やんだ。そして、彼女は決意したのだ。友人の再起の為に自分が恨まれるべきだと。
涼香は四葉に近づき、自分も膝をついた。顔と顔が触れられるほどの距離まで近づき、囁く。
「……そうかもしれない。私も四葉も……お互いに、やってはいけないことをしてしまった。だからせめて……二人でやり直しましょう。全ての罪は私が負う。世界の全てが敵に回っても……一番の友達である四葉が味方なら、私はなんだってできるから。弟の為に、チャンピオンになるために暴走族でも何でも蹴散らしたみたいにね」
そうやって、涼香は笑ってみせた。昔、トランプで一緒に遊んだ時のような、友人同士の屈託のない笑顔で。
「でもそれじゃあ、涼香だけが……」
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