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戦国異伝供書
第四十五話 影武者その六

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「まさかと思いまた一人と思い」
「そこで大いに戸惑っておったな」
「敵の軍勢全体が」
「そしてわし自身も出た」
「尚更戸惑っていましたな」
「敵を戸惑わせる、それもまたじゃ」
 晴信は笑って話した。
「兵法であるからな」
「戸惑わせて攻めたのですな」
「それも威力のある騎馬隊を敵の腹にぶつけたのじゃ」
「そうですな」
「それで勝った、戦は正面から戦う場合もあるが」
 それでもというのだ。
「こうしてじゃ」
「戸惑わせてそしてその隙に攻める」
「そういうこともする、そしてな」
「この度はですな」
「そうして攻めた」
「だから勝ちましたな」
「そういうことじゃ、しかし」
 晴信はここで顔を曳き締めさせた、それで言うのだった。
「次の戦は違うぞ」
「ですな、砥石城は堅城です」
 幸村が言ってきた。
「ですから」
「力技で攻めてもじゃ」
「攻め落とせませぬ」
「そうであるな」
「はい、あの城を無理に登って攻めても」
「突き落とされてじゃ」
 そしてというのだ。
「返り討ちに遭ってしまう」
「左様ですな」
「だから迂闊に攻められぬが」
「お館様、あの城ですが」
 ここで言ってきたのは幸村の祖父幸隆だった。
「それがしに考えがあります」
「ほう、どんな考えじゃ」
「これからお話して宜しいですか」
「話してみよ」
 これが晴信の返事だった。
「これよりな」
「それでは」
 幸隆は晴信の言葉を受けて自分の考えを話した、晴信は彼の話を諸将と共に全て聞いてからだった。
 そのうえでだ、こう言った。
「よい策じゃ」
「それでは」
「それでいく」
 こう幸隆に答えた。
「よいな」
「さすれば」
「さて、勝った宴はするが」
 勝ったことは事実だ、それでだ。
「しかしな」
「今はですな」
「軽くじゃ、盛大に行うのはな」
「この信濃の戦が完全に終わった」
「その時じゃ」
 こう幸村に話した。
「あくまでな」
「そうでありますか」
「お主も十勇士達も酒好きじゃな」
 晴信は笑ってこうも言った。
「そうじゃな」
「はい、そのことは」
「しかしじゃ」
 それでもと言うのだった、幸村に対して。
「今は軽くにしておくことじゃ」
「では信濃での戦が終われば」
「まだ戦は終わっておらんからな」
 それ故にというのだ。
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