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ある晴れた日に
460部分:これが無の世界その九
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これが無の世界その九

「急性アルコール中毒になってもおかしくない酒なんだぞ」
「まあ死にはしない」
 だがこれは根拠のない言葉であった。それでも彼は今ここであえて言うのであった。
「安心しろ」
「安心できるか。しかし本当に一本飲むのか」
「忘れる為にな」
 またこの言葉を出す正道だった。そしてまた飲む。
「飲むさ。一本全部な」
「これが七五〇だ」
 それだけあるというのである。
「ワインのボトル一本と同じだがな。アルコールの割合は比較にならないんだぞ」
「だからいいんだよ。とにかく今日はな」
「勝手にしろ」
 佐々もここで遂に折れたのだった。匙を投げたと言っても過言ではない。
「どうなっても知らんからな」
「そうしてくれ。今はな」
 言いながらまた飲む正道だった。ナッツは殆ど食べずただ飲むばかりであった。これも普段の彼の飲み方とは全く違っていた。
「そうしてもらえると有り難い」
「今日だけなんだろうな」
 佐々の目が剣呑なものになっていた。
「その飲み方は今日だけなんだろうな」
「さあな」
 今の問いにもこんな返答だった。
「どうなるか俺にもわからないな」
「じゃあ一つ言っておく」 
 こんなことを言う正道に対してぶしつけに言うのだった。
「ウォッカを出すのは今日だけだ」
「今日だけか」
「この酒は特別だからな。下手したら御前本当に死ぬぞ」
「死ぬんなら死んでもいいんだがな」
「馬鹿言え。誰が葬式に行くと思ってるんだ」
 なおも飲み続ける彼への言葉だった。
「他人の面倒考えろ。わかったな」
「葬式に行くことが面倒だからか」
「当たり前だ。適当に生きてろ」
 そしてこう言うのだった。
「わかったな」
「じゃあそうする。とりあえず今は忘れられそうだ」
「酒は確かに嫌なことを忘れさせるがな」
 佐々もそれは認めた。
「しかしな。溺れるな」
「溺れたい時もか」
「その時も溺れるな。忘れるだけにするんだな」
「溺れてしまいたいんだがな」
「葬式になる。止めろ」
 お世辞にもストレートとは言えない言葉で止め続ける佐々だった。
「いいな。絶対にだ」
「そうしたいんだがな。まあ今日はこれでいい」
 遂に一本飲んでしまった。だがナッツは殆ど減ってはいない。その状況でもいいというのだった。
「帰るからな。これでな」
「明日も来い」
 牧村の顔を見ずにの言葉だった。
「ウイスキーかそれ位ならまだ大丈夫だからな。それなら出してやる」
「わかった。じゃあまた明日な」
「話せる話でもないみたいだな」
 金を置いて立ち上がった正道に釣りを差し出しながら言った。
「そうだな」
「さてな。とにかくこれでな」
「寝るんだな。さっさとな」
 最後にこう言い合ってこの日は
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