5-1話
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「ク…」
頭を下げて礼を言うりおんに、アタシは微笑が漏れた。
ホント、この子は律儀である。
ヒラヒラと手を振り、そろそろこのやりとりを締めくくろうと視線は焚き火の方へと戻した。
「ほら、もう用は済んだのでしょう? もうあっちに―――」
アタシは途中で言葉を切った。
目線は焚き火に向けながらも、アタシの意識は別の感覚に向いた。
視覚とは捉えない中で、聴覚では伝わらない距離で、嗅覚では届かない風の向こうで……アタシはそれを感じた。
弾けるように立ち上がって、目線を深淵のような森の奥へと向ける。
油断ない緊張感の糸は、テグスのようにピンッと硬く張りつめる。
「……あ、あの…ジェニアリーさん?」
アタシは眉尻が上がり、顔は険しくなっているだろう。
そばにいるりおんがアタシの様子に慄いた。
―――彼女は知らないだろう。 この場において、アタシ以外誰も知らない。
灯りのなき夜の恐ろしさを。
そこに潜む生暖かい息遣いを。
この土地に有る冷厳な理不尽を。
「―――来る」
夜の惨劇が始まる。
矮小な人間は餌食となり、生贄となり、殺戮を引き連れる“獣達”が来る。
天信睦月は―――獣の内の一つに数えられる事になる。
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