暁 〜小説投稿サイト〜
探し求めてエデンの檻
5-1話
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一月》という名から取ったJanuary(一月)という偽名。

 使い古した英語の偽名だが、(ドイツ)語や(ラテン)語を出されて混乱しても可哀想なのでこっちにした。

「日本語、上手なんですね」
「アタシは日本人よ」

 ハーフだけどね。

「それで、何の用かしら?」

 カミングアウトに反応されても面倒なので話を進めた。
 促されて、りおんという子も切り口を得た事で本題が出てきた。

「仙石アキラ…という男の子を知りませんか?」
「仙石アキラ……」

 一応知っている。
 本名は教えたわけだし、昨日別れたばかりだから記憶に新しい。

「行方不明なんです…昨日は皆混乱していて、でも何度も探したけど見つからなかったんです、今日だって…」
「……」

 何とも…痛ましい気持ちが伝わる。
 この子は…仙石アキラを純粋に心配していて、今でもそれに悩み苦しんでいる。
 同じ学生仲間か…あるいはそれ以上の交友関係があるような反応。
 ただの男友達という認識では足りない想いだ。 必死さが窺える瞳も、(かげ)りのある表情も納得できる。

 こうも真摯(しんし)に心配してくれる姿を見ていると、友人を連想させる。

「でも…ジェニアリーさんはこの中には…いなかったですよね?」
「…はい?」
「全員というわけじゃないですけど…ジェニアリーさんみたいに蒼い髪をした人は見たことはありません」

 よく見てるわね。 アタシが目立つという事もあるだろうけど。

「もしかしたら、ですけど……ジェニアリーさんも行方不明の内の一人だったんじゃないですか?」
「ふむ…続けて」

 意図は読めてきた。
 だけど、あえて彼女の口から言わせる。
 “アタシ”からそれを口にするわけにはいかない。

「…アキラ君を…仙石アキラを知りませんか!?」

 それに帰結する。
 彼女のこちらに対する関心はそれだけ。 物珍しい髪色である事が災いした。
 “行方不明者”という共通点から何か得られるかもしれないから、この子はアタシに接触したのだ。
 その程度の共通点で訊くとは、藁にもすがる思いなのか…それほどまで心配か。

 しかし―――アタシは表情を変えずに言ってやった。

「……知らないわね」

 たった一言。

 少女の望みを切り捨てるには十分な一言。

 浅はかな希望は抱かせるべきじゃない。
 もう既に一日近く経っていて、今頃どうなっているかわからない。
 それを教えて不安を与えるより、知らぬものと答えた方がいいと思った。

 迂闊な一言で少女の身と心を危うくさせるべきじゃない。
 そう判断しての切り捨ての言葉。

「そう、ですか…」

 りおんは目に見えて気落ちす
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