巡る季節が奏でる出会い
[1/8]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
――夢の中の自分はいつだって曖昧だ。
――名前もない。性別もわからない。そもそも自分は何の生き物だったっけ。
――疑問を口に出そうとする。でも何も喋れない。喋れたとして何を言うんだろう。僕、私、それとも我が輩?
――体の一部を伸ばして、必死に誰かを掴もうとする。それは手か足かそれとも首か、それすらわからない。
――自分が何者で誰なのかを、与えてもらうために。
――伸ばした体は何も掴めない。代わりに音が聞こえてきた。生き物の声ではない、しかし明らかな意思の込められた旋律。
――ああそうだ。やっと思い出した。やっとこれであの人に手を伸ばせる。
――俺は。もうあの人を置き去りにはできないから。
瞳を開く。体を跳ね起こし旋律の聞こえる方に顔を向けると、そこには少年が立ってフルートを吹いていた。くるくるとした金髪に、線の細い顔。全体的に丈の余った黒いタキシードを着ている少年はフルートを口から離し、起きた自分の方に振り向く。そしてこちらを見て言った。
「……どうしました巡(めぐる)兄さま? 先ほどまでまたうなされていたようでしたけど……」
「そうだったのか? うーん……なんでだろうな」
「心配しましたが、とにかくお寝坊されなくてよかったです。今日は大事な出立の日なんですから」
夢の中の出来事とは、覚醒と共に忘却の彼方に消えていくものだ。巡と呼ばれた少年はさっきまで眠っていたベッドで用意していた服に着替えて、近くにある鏡台で自分の姿を見る。
あちこち跳ねた薄紫色の短髪に、服装は白の長袖シャツにポケットがたくさんついた青のダウンベスト。同じくポケットの多い黒ズボンは動きやすさと運べる小物の多さを重視している。顔は弟とは違って勝気でいたずら小僧じみている。
「……そうそう、未来のポケモンマスターこと巡の冒険は今日から始まるんだ!!」
今日から旅を始めるポケモントレーナーとしての日々が本格的に始まることを思い出し鏡の前でガッツポーズ。その様子をフルートを金髪の少年はケースカバーにしまいながら咎める。
「大げさですよ巡兄さま……僕らは確かにポケモントレーナーとして旅をしますが、あくまで一年前の成人の議や習い事のコンクールに出るのと同じ通過儀礼の一つなんですから」
「奏海にとっちゃそうかもだけどさー。俺にとってはこれが初めてなんだぜ?」
奏海は巡の双子の弟だ。生まれた時間はほんの十分程度の差らしいが、巡は活発でじっとしているのが苦手なのに対して奏海は落ち着いていて物腰も柔らかい。彼らの家はかなりのお金持ちだ。たくさんの農家に畑を貸して、そこで取れた作物の一部や儲けをもらっている地主というやつらしい。つまるところお坊ちゃんである二人は昔からやれ習い事だのパーティーだのに参
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ