巡る季節が奏でる出会い
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加させられてきた。……のだが、巡にその辺りの記憶はない。一年前に弟と一緒に成人した時も親戚総出のパーティーが開かれたらしいが、忘却の彼方なのである。
「そうでしたね……あの時はびっくりしましたよ。成人の儀を終えて一か月後に突然高熱を出して……お医者様が来てすぐに面会謝絶、一週間生死の境を彷徨ってやっとお会いできると思ったら全部の記憶が無くなってたんですから」
「はは、その話もう耳にタコができるくらい聞いたんだぜ?」
巡は記憶喪失だ。約一年前からの記憶がすっぱりと無くなっている。体も心もぐにゃぐにゃに溶けそうなくらいの熱さにずっと苛まれて、目が覚めたら何もかもが初めての世界だった。両親や周囲は大層戸惑い、腫れものを触るように扱われたが弟の奏海だけは自分に対して熱心に巡はどういう人間で自分たちはどういう人生を過ごしたのか教えてくれた。ちょっとルールや生活習慣にうるさいところがあるけれど、巡にとってはかけがえのない弟だ。
「でもさ、旅して強くなってポケモンリーグで優勝出来るくらい強くなれば父さんや母さんだって俺にポケモントレーナーとして生きていいっていうかもしれないだろ?」
「……もしかしたらそんなこともあり得るかもしれませんね」
「奏海、俺には無理だって思ってるだろ」
「そうは言いませんが……でもチャンピオンなんてそうそうなれっこないですよ。兄さまは地主の子として生まれてきたんですから」
「大丈夫大丈夫だって! この半年でもう貰ったポケモンだって進化したんだし、お前にも家のポケモン持ってる人たちにも最近は負けなくなったんだしさ! なっ、クロイトにスワビー!」
巡の上着ポケットの一つには、既にモンスターボールが二つ入っている。中身は空ではなく、既にポケモンがいた。アリゲイツにオオスバメだ。慣例に則れば旅を始める今日ポケモンを貰うのだが、今年からはチャンピオンの提言で旅のルールがかなり変わっている。概ね、旅の簡略化と安全性を重視した変更だったのでその点は非常にありがたいと奏海は思っていた。巡はワニノコとスバメを貰ったのだが一か月前に進化させ、それからはまだ負けていない。この短期間でポケモンを二体も進化させるなんて才能があると褒められていた。
「確かに四葉様のおかげで旅をする半年前からポケモンは頂けましたし僕のポケモン達は進化してませんけど……とにかく、兄さまの旅はあくまで嗜みですしお身体のこともあるんですから、それを忘れないでくださいね」
「一年前とか夢の中のことって覚えてないんだけどさ……ほんとなんなんだろうな」
「さあ……僕にはなんとも」
奏海は目を逸らす。周囲の話によれば巡は時折寝ている間に必死に何かを掴もうと手足を伸ばして呻いていることがあるらしい。起きた時には忘れているがなんとなく胸が焼けるような感覚
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