心を燃やす劫火
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たせる身としては礼儀の一つも弁えない子供を引率につけることは承諾できない。研究所のポケモンを奪い身勝手な振る舞いをしたことを報告すれば涼香を引率役から下ろすことは可能だ。
「……既に旅をしたことがあるトレーナーを引率につけるのは、四葉の提案で今年から始まった。どんなやり取りをしたのかは知らないけど博士も承諾した」
「だからなんだ? お前の代わりなどいくらでも用意できる」
「……その引率者が旅を始める前に新人トレーナーを殺してしまったらどうなるかしらね?」
「何?」
博士は涼香の顔を見る。冗談や見え透いた脅しではなかった。やりかねない、と思わせるほど、涼しい目の中には激情が宿っていた。
「四葉はトレーナーの旅を安全にするためにいろいろ工夫を重ねたらしいわね。引率者の他にもジムの縮小、新人トレーナーには旅をする一年前にポケモンは与えておくとか色々……あの子らしい賢い工夫よ。でも、危険から守るはずの人間の手で新人トレーナーが殺されてしまったら全てご破算。違うかしら?」
勿論そうなれば涼香は正真正銘の人殺しとして死罪になるだろう。四葉が涼香を裏切った理由も弟の死の真相もわからないまま人生を終えることになる。だが四葉や博士も困るはずだ。せっかくトレーナーの安全のために工夫を積みかさねたのに最初の旅が始まることなく死を迎えるなどあってはならないことのはず。
「あなたたちの言う通り引率役はしてあげる。でもそれは私が四葉に復讐するため、心までは思い通りにさせない。……これはその宣言よ」
「チッ……もともとじゃじゃ馬だったが一年見ないうちにとんだ暴れ馬になりやがって」
「じゃあ一旦出るわ。直接顔を合わせてくる」
「まさかとは思うが――」
「殺さないわよ。あなた達が私に引率役を任せている分にはね。ただ、邪魔するなら手段は選ばない」
涼香の目的はあくまで過去の真相を知ること。それを根幹から崩す真似を自分からするつもりはない。ヘルガーと共に博士の横を通り抜ける直前、一言小さく呟いた。
「何だと……? 待て、どういう意味だ」
それには答えず、涼香は背を向けて一旦研究所を後にする。二人が出ていった後、博士は苦々しく呟いた。
「あんなに良くしてもらっていたのに、ごめんなさい……か」
他の誰にも聞こえない言葉は、自分への謝罪だった。さっき自分を脅したのとはまるで違う、罪悪感に潰れそうな震えた声。
「……こりゃあ、荒れた旅になるだろうな」
涼香は元々非常に真直ぐであるがゆえに暴走しやすいところがあった。心も男勝りな勇敢さの反面他人想いで優しいところがある。四葉は、穏やかでかつ博士である自分よりもはるかに賢い少女だったから彼女がいいストッパーになっていた。だがその本心は一度も理解できたことがな
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