夢も未来もない旅立ち
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よ?ポケモンリーグ前のね」
「……」
「ドア越しで黙られてもわからないよ。僕の方から勝手に入るのも失礼だから、こっちに来てくれないかな?」
涼香は言われるままドアに近寄ろうとする。だが今の涼香にとっては、2人を隔てるドアはまるで分厚い鉄板のようにすら感じられた。開けることなど、出来ない。四葉が向こうでため息をつくと、涼香の体が淡い光に包まれる。次の瞬間には、涼香はアパートの廊下に出ていた。四葉はすでに自分の方を向いており、傍らには彼女のオーベムが控えている。『テレポート』か『サイドチェンジ』を使って涼香の体を転移させたのだ。四葉は戸惑い青ざめる涼香を頭の上からつま先まで眺めている。無理やり対面させられ、一方的に気まずさを感じる涼香が先に口を開いた。
「久しぶりの相手に、随分な、呼び出し方ね」
「へえ、髪を切ったんだね。いいじゃないかさっぱりしてて。涼香にはそっちの方が似合うと思うよ」
「……四葉は前よりも伸びたんじゃないかしら。あまり長いと乾かすのが面倒だって言ってなかった?」
「チャンピオンとして人前に出るのに相応しい外見を装った結果だよ。もう旅は終わったから手入れに時間をかけるのは簡単だしね」
一年前は、お互い背中にかかる程度の長さだった。堕ちた涼香は手入れする気にもならずバッサリと肩より上まで切り落とし、四葉はチャンピオンとしての外見のために腰まで伸ばしている。見る人が見れば傷み具合もまったく違うのだろう。着ている服も涼香の物はもう一年前から新しい服は買っていない。四葉は上質な薄い生地で出来た首元までしっかり覆われた紫色の礼装を着ている。四葉は落ちぶれて生気のない友人を心から心配そうな……まるで素から落ちたヒナでも見るような目を向ける。
「それにしても顔は随分とやつれたようだ。昔は食べ過ぎて体の一部に余計な脂肪がつくくらいだったのに」
「そんなこと……もう四葉には関係ないでしょ」
「一番の友人に対してつれないね。そういえば……涼香の大切な弟は元気かな?」
「――――ッ!あの子は、あの子は!!」
四葉は自分の弟が死んだことを知らないのだろう。涼しげに言う彼女に、涼香の心に忘れかけていた昔の激しい感情が巻き起こる。だが悪いのは自分だ。何も言えない。だがその表情は彼に何が起きたかをはっきり物語っていた。
「そう……それは残念だったね。じゃあ面白い話をしようか」
「話……?」
四葉の会話は独特だが、今の自分が冗談を聞いて笑うような気分だとでも思うのだろうか。困惑する涼香に構わず、四葉は語りだした。
「涼香はあの決勝戦、控室で僕の使うポケモンを盗み見て、失格となった。だけどあの時の涼香は、優勝しなければいけない責任感。弟との約束……普通の精神状態ではなかったはずだよ」
「だから……だから
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