夢も未来もない旅立ち
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部屋のあちこちに散乱したゴミをまとめて袋に入れて、ゴミの日などお構いなしにゴミ捨て場に放り出した。
掃除機もかけ、ひとまず自由に動き回れるだけのスペースを作った後部屋の整理をする。昔熱心に読んだバトルの参考書や、自分の育てたポケモン達の成長記録のアルバムを本棚に並べようとする。中身を見返しても辛くなるだけだと思い開こうとはしなかったが、重ねて運ぼうとすると上の方がばらばらと落ち、目を反らすことを拒否するようにページを開いた。
そこには、旅立ちの日の記念にと書かれていた。四葉と涼香。そして初めての手持ちのヒコザルとナエトルが写真に写っている。ヒコザルと揃って元気いっぱいの笑顔とピースサインを浮かべる涼香と、ぼんやりしたナエトルを抱えて静かに楽しそうに微笑む四葉。
何もかもが希望に満ちていたあの時。そこから先をなぞるように扇風機の風で、ページは進んでいく。ジムを制覇した時、手持ちが進化した時。6匹の仲間をそろえた時。写真を一枚一枚見なくても、一瞬視界に入るだけで記憶は蘇る。そして自分のしてしまったことに、忘れようとしていた罪悪感がぶり返す。
「あの子達、どうなったんだろう」
罪を犯したトレーナーの手持ちは没収される。場合によっては殺処分されるケースもあると聞いていた。危険な思想を忠実に実行するようなポケモンは人に害を及ぼすからだ。涼香の場合はポケモンには罪を犯させてはいないとはいえ、安否がわからないのは不安でしかない。四葉に聞けばわかるだろうか。だが聞く権利など自分にあるのだろうか。自分のポケモンを信じることが出来なかった私に。そんな思いが巡る。
「でも、もう……気にしても仕方ないんだ」
仮に生きていたとしても、もう何もしてあげることなど出来ない。だから自分は、考えるのをやめた。四葉に会うことも、最低限の相手をして帰ったらまたいつもの何の味気もない生活に戻るのだと漠然と考えていた。
掃除を終え、一年前の服装に着替える。鏡の前に立つと、今の自分はなんと死んだコイキングのような目をしているのだろう。いつ来るかと思うと、何もする気にならなかった。いや、それはいつものことなのだが。
果たして、その時は来た。大家さんが来た時以外は滅多にならないインターホンが鳴る。
なんて返事をすればいいのかわからない。心臓の鼓動が不規則になった気がした。何もできずにいると、声をかけられた。
「いるんだろう?久しぶりだ、よく待っててくれたね、涼香」
まるで躾の出来たポチエナを褒めるような口ぶり。声も口調も正しく四葉のものだった。涼香は、絞り出すように返事をする。
「なんで、ここに……?」
一番の疑問はそれだ。あの時以来、連絡の一つもなかった四葉がどうして今更。何のために。
「ただの挨拶だ
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