夢も未来もない旅立ち
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控室に仕掛けられていた監視カメラによって涼香の、試合前に相手の使用するポケモンを事前に見る不正行為が発覚。勝負は中止され、四葉の不戦勝となったのだ。
これが二人の夏の終わり。勝たなければいけないという執念と、偶然が生んだ、悲劇。
その、はずだった。
「……久しぶりに、この夢見たな」
昼過ぎ。目を覚ました涼香は濡れた瞼を拭い起き上がる。この事件が起きてから半年ほどは毎日のようにこの夢を見てうなされ、罪悪感に苛まれ。眠るのが怖くなるほどだった。
あの一件以来涼香はポケモンバトルの表舞台から追放。旅立つときにもらったトレーナーIDは剥奪され、自分の仲間であるポケモン達は全て没収された。神聖なるポケモンリーグを穢した邪悪な人間には、ポケモンという力は持たせられないからだ。
旅の途中で出会ったトレーナー達にも、蟒蛇の如く嫌われてしまった。素顔を晒して歩けば、トレーナーの恥さらしだと罵られた。もうポケモンを持っていないのをいいことに、かつて負かしたトレーナーに身ぐるみを剥がされたこともあった。
そして優勝を約束した姉が不正を犯したことで、家族との関係も壊れてしまった。弟は、自分が涼香に絶対に優勝してほしいなどと頼んだがために姉が不正をしてしまったと自分を責め、その命を絶ち。両親からは、お前が弟を殺したと言われ、勘当されてしまった。
トレーナーとしての未来も、ポケモンも、家族も、友人も全てを失くした。今の自分に出来るのは、ただ日々を食いつぶすように生きることだけだった。いや、もう自分は死んでいるのかもしれない。
「来なくて、いいよ……もう私には、何にもないんだよ」
昔の男勝りな言動が嘘のように震え、怯えた声で独り呟く。メールに結局返事は、していない。裏切り、全てを無くした自分を親友に見せたくなどなかった。いっそ今すぐ死んでしまおうかとも思った。だけどそんな無茶が出来るなら、とっくにやっていた。死ぬのは、怖いのだ。
せめてこのアパートから今日一日だけでもどこかに逃げようか。だけどそもそも、四葉には自分が今住んでいる場所など教えていないのだ。なのにいる位置も聞かずに来ると言ったということは、自分のいる位置など把握されているということではないだろうか。そんな思考が働いてしまう。
「とりあえず、部屋、片づけなきゃダメか……」
虫が湧くほどではないが、部屋は散らかっていて大分荒れている。かつての親友が来るのにこれではあんまりだと思った。こんなのくだらない現実逃避だとわかっていても、体と頭を動かさないとやっていられなかった。
台所のカップ麺を片付け、たわしで磨いて綺麗にする。
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