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『賢者の孫』の二次創作 カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み
魔人襲来
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 自身が教鞭を取る特別講習に出席したカートの様子を見たオリバー=シュトロームは一目で彼の様子が変わっていることに気がついた。
 良くなっている。
 負の感情を植えつけ、増幅させ、闇に堕ちる寸前まで進ませたというのに。
 侵食性の魔力のこもる実験室に通わせ、魔人化をうながしたのに。
 あと一歩、あと少しでこちらの思惑通りとなったのに。

「最近なにかありましたか?」
「いえ、特になにも」
「ならよいのですが、シュヴァルツ・モルゲン研究所にもしばらく行っていないようですね」
「はい。さすがに試験が近いのでずっと自宅で学習しています」
「学院の授業は要点を記憶して、後はそれを応用するだけです。試験は要領さえ良ければ、いくらでも得点できる。君のように優秀な人間なら座学よりも実技の予習をした方がいいでしょう。研究所内に君専用の実技室を用意しましょう。そこで思う存分力を磨きなさい」
「ありがとうございます。けれど今は試験にそなえて精神修養も兼ねて魔力制御の訓練に専念したいので」
「ほぅ、精神修養を兼ねた魔力制御ですか……。君くらいの歳でそんな考えに至るとは珍しい。だれかのアドバイスでもありましたか?」
「いいえ、あくまで俺一人の考えです」

 嘘だ。
 嘘をついている。
 何者かがカートの精神を浄化し、魔力の暴走を静めた。それもわずかな間に。そう判断したシュトロームは密かにカートの身辺を探らせ、おのれの計画を邪魔する存在を知った。

「キイチ=ホーゲン?」
「はい。帝国領から逃れてきた難民で、現在はリッツバーグ家に身を寄せているようです」
「変わった名だが、何者だ」
「東方にルーツを持つ一族で独自の文化や風習があり、妙な民間療法が伯爵の目に留まったようです」
「帝国からの移民、ですか」
「無為徒食の身に甘んじず雑役をこなして家中の信用を得ているようです。剣と魔法の心得もあるようで、その腕を活かすべく最近魔物ハンターに登録しました」

 帝国によって悲惨な生活を強いられ、剣にも魔法にも長けている。そのような人物ならばこちらの陣営に迎え入れたほうが得策かもしれない。
 しかし今のシュトロームがもっとも関心を寄せるのは魔人化計画。少しでもそれの弊害となるようなら、二つ返事で与しないというのなら、やはり処分するしかない。

「今は王都を離れ、ライアス辺境伯の領地に滞在中です」
「ライアスの? ……そうか、()の地では狂暴な肉食魔馬が猛威を奮っていたな」

 ライアス辺境伯の領地は野生馬が多く生息し、馬の産地として有名だか、その馬が魔獣化してしまったのだ。馬を捕ろうとした兵士たちが何人も蹴り殺されるだけではない。旅人を襲ってその肉を喰らうようになった。
 馬の産地で人を襲う馬の群れが領内を跳梁しているとあっては
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