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『賢者の孫』の二次創作 カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み
リッツバーグ伯爵邸にて
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インの摂取を控えている」
「医者からおなじようなことを言われたよ。一目で症状を言い当てるとはな、オンミョウジュツとやらには医術もふくまれるのかな」
「さて、そこです。私の生まれた国には鍼灸という独特の医療法がありまして、お体に触れもよろしいですか?」

 手のひらにある老宮、手の甲にある陽池、足の甲にある太衝、足の親指と人指し指のつけ根にある行間、膝の内側にある曲泉、背中にある肝兪。
 これらはすべて肝臓の働きを良くする経穴だ。
 好奇心に駆られたラッセルはそれらを点穴してもらった。

「あいたたた!? ……しかし、この痛みは妙に心地好い。身体が温まってくるようだ」
「事務仕事で目も酷使していることでしょう。この太陽穴は眼精疲労に効果があります」
「おお、目のかすみが消えて鮮明に」
「座りっぱなしで腰も痛めているでしょう。腰痛には帯脈と命門を……」
「重りが取れたように身体が軽くなった!」

 もともとリベラル派で他文化を尊重しているラッセルは異邦の知恵と技術に歓心を得た。

「――なかなか面白い余興だが、そろそろ本題に入ろうか。まさか今のようなシンキュウとやらや先ほどの詐術で狼の魔物を退けたわけではあるまい? そろそろ魔法の腕を見せてくれないか」
「わかりました。とはいえ炎の球だの雷の矢だのを飛ばす破壊魔法では芸がない。伯爵家の静謐を乱してしまうことでしょうし、このような芸はいかがでしょう――銀嶺より吹きし冷風よ氷原を駆け凍土に満ちよ」

 法眼が呪文を唱えた瞬間、室内は氷室の中にいるような冷気に満ちた。

「お確かめください」
「む、これは!」

 水差しの中に満たされた水が凍結している。
 法眼は炎の球や雷の矢を飛ばす魔法は芸がないと言ったが、たしかに単純な破壊魔法よりもピンポイントで対象を変化させる魔法は難度が高い。
 また加熱よりも冷却のほうが高度な技術と魔力を必要とする。水を温めてお湯を沸かすよりも凍らせるほうがむずかしいのだ。
 これは高レベルの魔力制御ができている証左である。
 これを目の当たりにしたラッセルは即座に相手の技量が非凡なものであると確信した。

「見事だ。キイチ=ホーゲンよ、我が邸に滞在することを許す」

 こうして法眼はラッセルに認められ、リッツバーグ邸に滞在することとなった。
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