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『賢者の孫』の二次創作 カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み
邂逅
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筋肉質な体、見かけないデザインの服。
 間違いない、先ほどまで映像越しに見ていた向こう側の人物。鬼一法眼だ。

「お、おまえはなんで――」
「あんた、憑かれているな」
「え?」
「五気の偏向に陰の気の増加。憑依されたからそうなったのか、そうなったから憑依されたのかは知らないが、生成り状態だ。このままだと、鬼になるぞ」

 五気とは木火土金水、五行の気のこと。生成りとは陰の気、負の感情の増加などによって陰陽の均衡が崩れ、生きながらにして鬼などの人外の存在になってしまうこと。
 一瞬とはいえ精神が同調し、法眼の知識をいくらか得ていたカートはそのことを理解した。
 そしてカートも魔法学院の教育を受けた身だ、生成りというのがこの世界における魔人化に等しいことだと認識する。

「なにをバカなことを! 人が滅多なことで魔物になんてなるか」
「無益な殺生をしておいて、本気でそう思っているのか」

 そう言って魔方陣を指す。

「理由もなく生き物を殺す行為は己の心をも殺し、汚す行為だ。殺されたものの恨みの念を受け、おかしくなるぞ」
「理由ならある、実験さ。動物がどれだけの魔力で魔物化するかを調べてたんだ。魔物の驚異に対する重要なことさ」
「実験というのはおなじ条件でおなじ内容を繰り返して、誰がやってもおなじ結果になるかを調べることだ。きちんとデータを取っているのか?」
「そ、それは……」
「高尚な実験なんかじゃない。善悪の区別もできない子どもが捕まえてきた虫を戯れに殺すように、貴族どもが捕虜を剣闘士奴隷にして殺し合いをさせるように、おまえは命そのものを弄んでいた」
「うるさいうるさいうるさい! 『貴族どもが』だって? そうとも、俺は貴族だ。栄えあるリッツバーグ伯爵家のカートだ。その俺が畜生どもを自由にしてなにが悪い」
「動物を殺すものは、いずれ人をも殺すようになる。このままではおまえは守るべき領民を虐殺する暴君に成り果ててしまうだろう」
「守るべき領民? いいや、違うね。あいつらは俺たち貴族の奴隷、飼い犬、所有物。従順で優秀なやつなら生かしてやってもいいが、そうでない輩なんて虫けら同然。そんな害虫どもはせいぜい俺たち貴族の慰みものに――」

パァンッ!

 法眼が両の掌を打ち鳴らした。柏手を打ったのだ。
 音に込められた冷たく澄んだ清冽な気によってカートに満ちていた陰の気を祓い、邪悪で凶暴な思想を消し飛ばしていた。
 それはまるでなんの前触れもなく全身に水を、滝のように大量の冷たく透き通った清水を浴びせられたかのようだった。

「あ……」

 突然のことに驚きはしても、けして不快ではない。むしろ心地良さを感じる。

「カート=フォン=リッツバーグ。おまえの記憶でもっとも古い父親の言葉はなんだ」

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