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戦国異伝供書
第四十三話 関東のことその八

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「そうしてじゃ」
「そのうえで」
「敵が来ぬうちに川を渡るのじゃ」
「まずはそこからですな」
「そうしてな」
「戦ですな」
「それに入るとしよう」
 こう言うのだった。
 そして晴信は村上家と小笠原家の軍勢の状況を見つつ兵を進めた、忍の者を多く放ち敵の動きを見ていたが。
 その動きを聞いてだった、晴信は陣中で言った。
「ふむ、流石にのう」
「動きが速いですな」
 高坂が晴信に述べた、
「やはり」
「うむ、やはりじゃ」
「村上殿も小笠原殿も愚かではないですな」
「特に小笠原殿は一度我等に負けている」
「だから警戒しておる」
 自分達にというのだ。
「それでじゃ」
「こちらの動きに対して」
「速く動いてな」
 そうしてというのだ。
「対しようとしておる」
「左様ですな」
「それでじゃ」 
 晴信はさらに言った。
「若し敵が千曲川の向こうに我等が来る前に布陣するとな」
「その時はどうするか」
「敵の動きを聞くとな」
 晴信は険しい顔のまま述べた。
「おそらくな」
「我等が川を渡るまでに」
「向こう側に布陣してくる」
 千曲川の北岸にというのだ。
「だからじゃ」
「その敵にどうするか」
「まず言うが我等はな」
「はい、川を渡る」
「この二万の軍勢がな」
「そうしてですな」
「敵と戦う考えじゃが」
 それがと言うのだった。
「敵が待ち構えておる中で無理に川を渡ろうなぞ」
「愚の骨頂ですな」
「果たしても多くの兵を失う」
 このことが間違いないというのだ。
「だからじゃ」
「それはしませぬな」
「力技よりもですな」
「知恵ですな」
 ここで内藤が応えた。
「それを使って」
「そうじゃ、敵はこちらより数が少ない」
「その数ですが」
 内藤はその数について述べた。
「我等が二万に対して」
「八千程じゃな」
「我等は甲斐と信濃の南、佐久と上田を合わせて」
「それで二万二千でな」
「そのうちの二万はここにいて」
「千が上田におる」
 甲斐には一千程度を置いている、まさに武田家にとっては乾坤一擲の戦なのがこの度の戦なのだ。
「兵の数はこちらが二倍半」
「それは大きいですが」
「しかしな」
 兵では有利でもとだ、晴信は言うのだ。
「対岸を押さえられるとな」
「中々ですな」
「攻められぬ、それをどうするじゃ」
「それが肝心ですな」
「それでわしとしてはじゃ」
 晴信はさらに話した。
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